原作:雫井脩介 / 監督&脚本:原田眞人 / 製作:市川南 / エグゼクティヴプロデューサー:山内章弘 / 共同製作:藤島ジュリーK. / 企画&プロデュース:臼井央 / 撮影:柴主高秀 / 照明:大坂章夫 / 美術:福澤勝広 / 装飾:籠尾和人、高橋光、岩井健志 / VFXスーパーヴァイザー:オダイッセイ / 録音:矢野正人、鶴巻仁 / 編集:原田遊人 / 衣装:宮本まさ江 / キャスティング:杉野剛 / 音響効果:柴崎憲治 / 音楽:富貴晴美、土屋玲子 / 出演:木村拓哉、二宮和也、吉高由里子、平岳大、大倉孝二、八嶋智人、音尾琢真、大場泰正、谷田歩、酒向芳、矢島健一、キムラ緑子、芦名星、山崎紘菜、三浦誠己、阿南健治、田中美央、赤間麻里子、長田侑子、黒澤はるか、松重豊、山崎努 / 製作プロダクション:東宝映画 / 配給:東宝
2018年日本作品 / 上映時間:2時間3分
2018年9月10日日本公開
2019年2月20日映像ソフト日本盤発売予定
公式サイト : http://kensatsugawa-movie.jp/
TOHOシネマズシャンテにて初見(2018/11/22)
[粗筋]
2017年。東京地検刑事部に配属となった沖野啓一郎(二宮和也)が初めて任されたのは、老夫婦の殺人事件だった。
捜査の中で、老夫婦が不動産収入を元手に金貸しをしていたことが判明し、捜査本部は夫婦に金を借りていた者のなかに犯人がいると推測、容疑者を絞り込んでいった。刑事部本部係検事として担当検事を選任、教育や指導、相談を請け負う立場にある最上毅(木村拓哉)は、そうしてリストアップされた容疑者のなかに松倉重生(酒匂芳)の名前を見つけて、密かに衝撃を受ける。
松倉は23年前、荒川で女子高生が殺害された事件で、最有力の容疑者として名前が挙がっていた男だった。状況証拠が揃っていたことに加え、未成年当時に一家を惨殺した前科もあって、犯行は確実と思われていたが、繰り返しの事情聴取をのらりくらりと躱し、遂に尻尾を掴ませなかった。
このとき殺害された女子高生は、最上が学生時代に入っていた寮の、管理人の娘だった。捜査員たちが他の容疑者の背景も探るなか、最上は裏社会のフィクサーである諏訪部利成(松重豊)に連絡を取り、別ルートでの情報を求めた。
捜査本部でも松倉の容疑が濃厚、という判断がなされ、別件で身柄を確保することにした。拘留期間のあいだに自白を引き出すべく、最上は沖野に尋問を託す。
松倉の、年少者に対する侮りを逆手に取った作戦は、ある意味で奏功した。沖野の挑発に乗って、23年前の荒川での殺しが自分の犯行であることを、松倉が認めたのである――
[感想]
本来、法を守るべき人間が、その使命感故に超えかねない“一線”でのせめぎ合いを、極めて緊張感のあるタッチと、優れた映像感覚で綴った作品である。
そういう意味で本篇の主人公は木村拓哉が演じる検事・最上毅だ。冒頭、新人検事たちに対して、法曹に携わる者が一歩間違えれば犯罪者に転じる危うさを説く姿には潔癖さが窺えるが、その後の出来事として描かれる事件と、並行する言動には既にギャップが覗く。そして、追っていた事件の容疑者を巡る過去が明らかになったことで、急速に逸脱していく。
実のところ、最上の行為だけなら、安易に英雄然と描くことも不可能ではない。ある意味、それをやったのが『必殺仕事人』や『遠山の金さん』のような勧善懲悪の物語だった。しかし、現実には美化して描くことは出来ない。法曹に携わる者が第一に遵守するべきは“法”であり、その範囲から逸脱した捜査、大前提となる段階での決めつけは時として冤罪に発展し、更に暴走した場合に最上のような行為に及ぶ。本篇は、その立場にある者として陥る罠を、巧みに誇張して描いている。最終的に彼の選んだ道を是とするか否とするか、は観客がそれぞれに考えるべきだろう。
しかし、そのテーマを浮き彫りにするに当たって、真に重要な役割を果たすのは二宮和也が演じる沖野啓一郎のほうだ。まだ新米で使命感に富む沖野は、次第に逸脱していく最上の言動を客観的に判断するうえでの基準となる。当初の最上の教えを意識に叩きこんでいるからこそ、最上が次第に危険な域に踏み込もうとしていることを察し、そのことに苦しむ。最上のように、事件との明確な関係性がないために、事件に対しては客観的な立場を保ちうるが、他方で容疑者として現れる松倉の言動に振り回され、感情を揺さぶられる。
この、感情の振り幅が大きい沖野というキャラクターを、二宮は見事なメリハリを効かせて演じている。とりわけその振り幅の素晴らしさを実感させられるのは、物語の山場のひとつ、松倉が過去の犯行を自供するくだりだ。更なる証言を引き出すべく、口を極めて罵倒するのだが、そのインパクトは観ている方が圧倒されるほどだ。しかも話によれば、このくだりの台詞はかなり二宮のアドリブが含まれているうえに、のちに何を言ったか覚えていないほど、役に入り込んでいたそうだ。その没頭ぶりが頷ける鬼気迫る表情、しかも直後にまったくの平静に戻って振る舞うメリハリは見事だ。その後も、吉高由里子演じる橘沙穂との妙に初々しいやり取りや、クライマックスで最上と再び対峙するくだりなど、適度な抑制を効かせつつ多彩な表情を見せており、俳優としてのスペックの高さを遺憾なく発揮している。従来のイメージのラインを保ちながら、危うい設定に挑んだ木村拓哉の貫禄、会話するほどに煙に巻かれる怪人物を完璧に体現した酒匂芳、裏社会に精通しながら警察組織に巧みに取り入り絶妙に尻尾を掴ませないクセ者を演じた松重豊、そしてある目的意識をもって職務に就き、結果的に沖野の行動や決断のトリガーとなるヒロインを魅力的に演じた吉高由里子と、多くの役者が好演しているが、二宮の存在感は突出している。
本篇に登場する組織などは現実に添っているが、その舞台のデザインは必ずしもリアルではない。だが、あえて見映えのする舞台設計、構図を意識することで、本篇はそうした役者陣の演技を引き立てている。まるで異世界に踏み込んだかのようなバーのセットや、物語を経たあとの二人の感情を1画面で対比させた最後の舞台などは特に秀逸だ。
謎解きとして鑑賞すると、必ずしもすべての情報が出揃っているとは言えないもどかしさ、本当にこういう結末で済むのか? という疑問が拭えない。とりわけ悩ましいのは、劇中、大きく物語を動かす“告白”が果たして真実なのか、という疑問だ――この点に疑いを抱くと、本篇の結末はより危うさを感じるはずである。だが、それこそが本篇の物語の奥深さであり、抱え込んだ罪の重さ、とも言える。
罪を巡る駆け引きをスリリングに描きだしたエンタテインメントでありながら、その問いかけの深い、重厚な秀作である。
関連作品:
『2046』/『武士の一分』/『HERO [劇場版]』/『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』/『SPACE BATTLESHIP ヤマト』/『硫黄島からの手紙』/『ロボジー』/『真夏の方程式』/『一命』/『ソフトボーイ』/『ぐるりのこと。』/『思い出のマーニー』/『シン・ゴジラ』/『テルマエ・ロマエII』/『源氏物語 千年の謎』/『アナザー Another』/『清須会議』/『のみとり侍』
『情婦』/『十二人の怒れる男』/『容疑者室井慎次』/『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』/『それでもボクはやってない』/『ダークナイト』
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