原題:“Deadpool2” / 監督:デヴィッド・リーチ / 脚本:レット・リース、ポール・ワーニック、ライアン・レイノルズ / 製作:サイモン・キンバーグ、ライアン・レイノルズ、ローレン・シュラー・ドナー / 製作総指揮:スタン・リー、ジョナサン・コーマック・マーティン、ケー・マコーミック、レット・リース、イーサン・スミス、アディティア・スード、ポール・ワーニック / 撮影監督:ジョナサン・セラ / プロダクション・デザイナー:デヴィッド・シューナーマン / 編集:クレイグ・アルパート、マイケル・マックスカー、エリザベット・ナルドッター、ダルク・ウェスターヴォルト / 衣装:カート・アンド・バート / 音楽:タイラー・ベイツ / 出演:ライアン・レイノルズ、ジョシュ・ブローリン、モリーナ・バッカリン、ジュリアン・デニソン、ザジー・ビーツ、T・J・ミラー、レスリー・アガムズ、カラン・ソーニ、ブリアナ・ヒルデブランド、ジャック・ケーシー、エディ・マーサン、忽那汐里 / 配給:20世紀フォックス
2018年アメリカ作品 / 上映時間:2時間 / 日本語字幕:松崎広幸 / R15+
2018年6月1日日本公開
公式サイト : http://www.foxmovies-jp.com/deadpool/
TOHOシネマズ日比谷にて初見(2018/06/01)
[粗筋]
――病を克服するはずが、人体実験によって不死身の身体を手に入れてしまったデッドプールことウェイド・ウィルソン(ライアン・レイノルズ)は、ある理由から、とうとうX-MENに迎え入れられる。
しかし、初っぱなのミッションで、ミュータント専門の養護施設で暴れ回っていた少年ラッセル(ジュリアン・デニソン)を制圧するはずが、虐待を加えられていた、という話にほだされ、ウェイドは施設の責任者を襲撃する。結果、ウェイドはラッセルもろとも、超能力を封じる首輪を嵌められ、“アイスボックス”と通称される、ミュータント専門の刑務所へ送りこまれてしまう。
超能力を封じられたことで、もともと抱えていた癌の病巣に瞬く間に蝕まれていったウェイドは、刑務所のなかでほかに頼るものがなく縋ってくるラッセルをあえて突き放した。自分よりも強い友達を作って生き延びろ、と諭すが、ラッセルは意固地にウェイドにつきまとう。
そんなとき、刑務所が襲撃を受ける。現れた男が、看守や凶暴な囚人を薙ぎ倒し、狙いを定めたのは、何故かラッセルだった。襲撃のどさくさで不死身の身体を取り戻したウェイドは、ラッセルを救うため、ケーブル(ジョシュ・ブローリン)と名乗った男に対抗するが、相討ちに終わる。
刑務所から帰還したウェイドは、自らの使命として、ラッセルを助けることを決意する。次にケーブルがラッセルを襲うとすれば、警戒が厳重となった刑務所ではなく、新たな施設に移送されるそのあいだだろう、と予測したウェイドは、親友とともにX-MENに所属しないアウトローの超人たちを募り、独自の部隊を編成して、ケーブルを阻止することを画策した――
[感想]
R-15という高いレーティングでは異例の大ヒットを遂げた異色のスーパーヒーローが、前作から僅か2年で帰ってきた。背景には、そもそも前作が成立までに長い月日を費やした念願のタイトルだった、ということと、“マーヴェル・シネティック・ユニヴァース”に先行しながらも成績面で後塵を拝していた“X-MEN”サーガにとっても希望をもたらす結果でもあったから、という事情があるようだ。実際、前作に続いて発表されたヒュー・ジャックマンによるウルヴァリン最後の作品『ローガン』は同じR-15を許容するハードな内容を選んだことで、興収的にも、批評的にも成功を収めた。
しかし本篇の一番の魅力は、そうした背景すらネタにすることを許してしまう、数多いヒーローのなかでもいまのところマーヴェル系列ではデッドプールのみが可能な特殊能力にこそある。
この点、冒頭から前作を凌駕する勢いで飛ばしまくっている。前述した『ローガン』について、「自分の真似をして、あんなにヒットしたせいで、もっと過激なことをしなきゃならなくなった」という具合に嘆いている。“X-MEN”絡みでも、演じている俳優の方に言及する、というのを繰り返し仕掛けてくるのだが、それがいちいち映画好きのツボを突いてくる。もし自分がデッドプールならここに突っ込むだろう、というところを細かに拾ってくれるので、痛快なのだ――ちょうど直前に公開された『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を観たひとなら気になるであろうポイントも、しっかり拾っているのだからたまらない。
だがこの作品、シリーズの優秀なところは、シナリオの質自体も高い、ということだ。デップーの人を食いまくった言動に翻弄されて見失いがちだが、本篇のプロットはヒーローものの常道を巧みに外しながら、それでいて筋が通っている。何故この無責任な男がこういう決断をするに至ったか、という心理的な裏付けが明確で、ところどころ意表をついた展開を見せながらも、不自然さがない。
近年のアメコミ・ヒーロー映画はみなそういう傾向があるが、意外性という点において、本篇はトップクラスと言っていい。こんなに展開が読めない作品もちょっと珍しいだろう。実のところ、予告篇の段階から細工を施していて、劇場を頻繁に訪れるひとさえも攪乱しているのだが、予備知識の有無に拘わらず、本篇の展開は予測困難だ。
しかも、ただ意外性ばかりを追っているのではなく、本篇におけるデップーの心の遍歴と、向こう側にある主題はまったくブレていない。本篇のプロローグ部分でデップーは冗談めかして「これはファミリー映画だ」と言っているが、本当に、それがあながち間違いではないのである――相変わらず人を殺すのにためらいはなく、手段もおよそヒーロー映画らしからぬエグさで、家族連れにストレートに勧めるのは躊躇われるが、レーティングに引っかからないくらいのお子様がいるご家庭なら真面目に鑑賞してみてもいいかも知れない。
こんなふうに書くのはいささか面映ゆいが、この作品にははっきりと、情熱が籠められている。初めてデッドプールを演じて以来、長い時間を費やして単独作の実現に奔走し、そして製作にあってもシナリオ段階から目を光らせデップーのキャラクター性を維持し続けたライアン・レイノルズはじめ、作品とこの世界を愛し、楽しもう、という意識が溢れかえっている。前作でデップーに惹かれ、再登場を待ち焦がれていた観客を、最初から最後までいい意味で裏切らず、同時に快く裏切る仕上がりとなっているのも、スタッフの意欲の為せる技だろう。
仮に前作についてよく知らなくとも、隅々まで型破りだけど芯だけは通っているこの異色のヒーローに魅せられるはずだ。“アベンジャーズ”絡みの、クオリティは高いが少々お行儀のいいヒーローたちとも、劇中でもちょっと揶揄されている“DCコミックス”のような重く暗い背景を持つヒーローたちとも異なる、クレイジーだけどやけに筋が通っていて憎めない、いまのところ唯一無二の個性。その魅力が存分に堪能できる快作だ。
現時点で、『キャビン』のドリュー・ゴダード監督が手懸ける『X-Force』に登場することが確定しているデップーだが、、本作にて1作目のスタイルを更に掘り下げ、大多数の支持を集めた結果、ふたたび記録的なヒットを遂げたことで、第3作の製作もほぼ確定的となったようだ。続けば続くほど苦しくなるスタイルでもあるが、しかしこうなったら続く限りは続けてしまって欲しい。
関連作品:
『デッドプール』
『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』/『X-MEN2』/『X-MEN:ファイナル ディシジョン』/『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』/『X−MEN:フューチャー&パスト』/『ウルヴァリン:SAMURAI』
『[リミット]』/『デンジャラス・ラン』/『テッド』/『トゥルー・グリット』/『とらわれて夏』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』/『トランスフォーマー/ロストエイジ』/『フィルス』/『許されざる者(2013)』/『マリアンヌ』
『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』/『ターミネーター3』/『ムカデ人間』/『SAW ザ・ファイナル 3D』/『アベンジャーズ』/『レ・ミゼラブル』/『アナと雪の女王』/『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』
『キャビン』
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