原題:“Las Brujasde Zugarramurdi” / 監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア / 脚本:ホルヘ・ゲリカエチェバリア、アレックス・デ・ラ・イグレシア / 製作:エンリケ・セレソ、ベラネ・フレディアーニ、フランク・リヴィエレ、シェイラ・シグエレ / 撮影監督:キコ・デ・ラ・リカ / プロダクション・デザイナー:アルトゥーロ・ガリシア、ホセ・ルイス・アリサバラガ / 編集:パブロ・ブランコ / 衣装:パコ・デルガド / 視覚効果:フェラン・ピケール / 音響:チャーリー・シュムクラー、ニコラス・デ・ポールピケット / 音楽:ジョアン・ヴァレント / 出演:ウーゴ・シルヴァ、マリオ・カサス、ハイメ・オルドニェス、テレレ・パベス、カルメン・マウラ、カロリーナ・バング、マカレナ・ゴメス、ガブリエル・デルガド、ペポン・ニエト、セクン・デ・ラ・ロサ、ハビエル・ボテット、マヌエル・タリャフェ、エンリケ・ビリェン、サンティアゴ・セグーラ、カルロス・アレセス、マリア・バランコ / 配給&映像ソフト発売元:松竹メディア事業部
2013年スペイン作品 / 上映時間:1時間54分 / 日本語字幕:小出剛士 / R15+
2014年11月22日日本公開
2015年4月2日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
公式サイト : http://www.shochiku.co.jp/iglesia/
ヒューマントラストシネマ渋谷にて初見(2014/11/29)
[粗筋]
祭りで賑わう街に、突如、銃声と悲鳴が響いた。
大道芸人に扮した一団が貴金属店に侵入、金品を強奪したが、見張りを担当していた着ぐるみたちが通行人と揉み合いになり相手を撃ち殺したことで、現場は大混乱に陥る。スポンジ・ボブが撃ち殺され、透明人間やネズミの少女が取り押さえられるなか、店舗に踏み込んでいたキリストことホセと緑の兵士に扮したトニー、それに仕事を手伝わされていたホセの息子セルジオだけが、通りすがりのタクシーを巻き添えにして、かろうじて逃げ延びた。
フランスとの国境を目指していた一同は、道中、休憩を取ったバーで道を訊ねる。いつの間にか仲間ヅラしていたタクシーの運転手マヌエルは、女主人から、国境に通じる村の名前を聞いた途端に蒼白となった。その村、スガラムルディは魔女伝説の残る、忌まわしい場所だった。
マヌエルの不安をホセたちは笑い飛ばして、ふたたび国境を目指したが、彼らは解っていなかった――自分たちがとっくの昔に、魔性の者たちに魅入られていたことに――
[感想]
スガラムルディという土地も、その地方に伝わる魔女伝説も実在している。当地では、あの悪名高い魔女狩りの際、無辜の民が多数殺害された記録も残っている。
と、これだけ並べ立てるとひどく陰惨な歴史を抱えた街のようにも思うが、現在は魔女の存在をモチーフとした祭礼も催されているようで、決してネガティヴな受け止め方をしていないようだ――そして、そういう事実なくして、たぶんこんなハチャメチャな映画は作られなかったはずだ。
タイトルはオカルト臭ぷんぷん、プロローグもまさに現代の魔女の登場らしく不気味で不穏だが、オープニングを挟んで繰り広げられるのは、あまりにも破天荒な貴金属店襲撃の模様だ。仮装集団による強引な襲撃に、無関係な人々も周囲にいる中で遠慮なく発砲する警察。タクシーを捕まえれば同乗者はやたらとうるさいし、運転手は勝手に共鳴して仲間入りを宣言したりする。正直なところ、このプロセスを広げるだけでも面白い話になりそうなハチャメチャぶりだ。
しかしここに“魔女”たちが絡むと、更に狂騒的な展開を始める。何となく、「ホセたちが捕まるんだろうな〜」ぐらいは見当がつくだろうが、恐らくそれ以外の展開は想像がつかないだろう――モチーフ自体は定番でも、本篇の扱いは組み立て方も、個々のモチーフの際立て方も壮絶で、あらかた予測を上回ってくるはずだ。
冒頭から血飛沫は飛び散るし、魔女達は振る舞いがグロテスクで、その生活感の描写が全般に不潔なので、ひとによってはかなり受け入れがたい内容だろう。ただ、オカルトものやスラッシャーの類に愛着があるひとなら、それらのジャンルを吸収しながら奔放に膨らませた本篇には胸躍らせるに違いない。
強盗のシーンが、中心人物たちのみならず追う警察のほうもやり過ぎで思慮に欠けているくらいだから推して知るべしだが、話がオカルトに偏ってから以降も、随所に展開が乱暴だったり、ご都合主義的な部分も目につく。ただ、本篇はそうした唐突さがおおむね笑いに繋がっており、周到な計算が窺える。特に、実質的な主人公であるホセと、彼を巡る人間関係の活かし方は絶妙だ。それぞれの当初の関係性があって、それがこの異常な出来事に投げ込まれることでいっそうダイナミックな筋書きを生み出している。
何が凄いって、これだけハチャメチャで、実のところ色々と解消していない問題があるというのに、観終わったときの印象が爽快なのだ。満身創痍としか言いようのない人もいるし、お前ら本当にそういう生活してていいのか、という奴もいる。そして不穏な影もあるのに、それが楽しくて仕方ない。
本篇のアレックス・デ・ラ・イグレシア監督は、日本でこそマニアックな扱いだが、地元スペインではもともと評価が高い。この作品もスペイン最高の映画賞であるゴヤ賞で10部門ノミネート、8部門で受賞している――どー考えても頭のおかしいこの内容で賞を獲っていること自体かなり凄いことのような気がするが、それだけの地位と信頼があるからこそ、多数の出演者と大がかりなセットや特殊メイク、VFXもふんだんに必要、それでいてぶっ飛んだ作品を撮ることが出来るのだろう。それが許されることが羨ましくなるような、そんな1本でもある。
関連作品:
『刺さった男』
『サスペリア・テルザ―最後の魔女―』/『コララインとボタンの魔女 3D』/『REC/レック3 ジェネシス』/『パンズ・ラビリンス』/『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』/『パシフィック・リム』
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