『マイティ・ソー/ダーク・ワールド(3D・字幕)』

TOHOシネマズ渋谷、スクリーン5入口前に掲示されたポスター。

原題:“Thor : The Dark World” / 監督:アラン・テイラー / 原案:ドン・ペイン、ロバート・ロダット / 脚本:クリストファー・L・ヨスト、クリストファー・マルクス、スティーヴン・マクフィーリー / 製作:ケヴィン・ファイギ,p.g.a. / 製作総指揮:アラン・ファイン、スタン・リー、ルイス・デスポジート、ヴィクトリア・アロンソ、クレイグ・カイル、ナイジェル・ゴストゥロウ / 製作補:デヴィッド・J・グラント、ジェイミー・クリストファー / 撮影監督:クレイマー・モーゲンソー,ASC / 視覚効果監修:ジェイク・モリソン / プロダクション・デザイナー:チャールズ・ウッド / 編集:ダン・レーベンタール,A.C.E.、ワイアット・スミス / 衣裳:ウェンディ・パートリッジ / キャスティング:サラ・ハリー・フィン,C.S.A. / 音楽:ブライアン・タイラー / 音楽監修:デイヴ・ジョーダン / 出演:クリス・ヘムズワースナタリー・ポートマントム・ヒドルストンアンソニー・ホプキンスステラン・スカルスガルドイドリス・エルバクリストファー・エクルストンアドウェール・アキノエ=アグバエ、カット・デニングス、レイ・スティーヴンソン、ザカリー・リーヴァイ、浅野忠信ジェイミー・アレクサンダーレネ・ルッソ / マーヴェル・スタジオ製作 / 配給:Walt Disney Studios Japan

2013年アメリカ作品 / 上映時間:1時間52分 / 日本語字幕:林完治

2014年2月1日日本公開

公式サイト : http://thor2.jp/

TOHOシネマズ渋谷にて初見(2014/02/01)



[粗筋]

 世界樹を巡る9つの世界のひとつ、スヴァルトアールヴヘイムを拠点とするダークエルフの一族は、光を憎悪していた。ダークエルフを統べるマレキス(クリストファー・エクルストン)は、惑星直列の好機に自らが開発した変幻自在の兵器“エーテル”を放ち、世界を無に帰そうと目論んだが、時のアスガルド王ボーが辛うじてそれを阻む。マレキスは自らの軍と引き替えに多くの犠牲をアスガルド軍に与えると、捲土重来を期して外宇宙に逃走する。ボーは残された“エーテル”を、誰も入り込めない地下深くに埋め、封印するのだった。

 時は流れ、現代。9つの宇宙を結ぶ“虹の橋”が崩壊し、統制を失った世界は荒廃し、各地で争いが頻発する。現王オーディン(アンソニー・ホプキンス)によって後継者として認められた雷神ソー(クリス・ヘムズワース)は戦友たちと共に各地を訪ね、どうにか戦乱を収めることに成功する。父やアスガルドの民はソーの武勲を讃えるが、彼の気懸かりは常に、往来の出来ない彼方にいるひとりの女性のことだった。

 同じ頃のミッドガルドこと、地球。ロンドンの廃墟で、奇妙な重力異常が確認された。いち早く察知した研究者のジェーン・フォスター(ナタリー・ポートマン)が助手とともに現地に赴くと、そこでは異様な事態が起きていた。物体の質量が変動し、吹き抜けで落としたものはしばしば頭上から降ってくる。ジェーンが、かつて彼女が遭遇した“奇跡”に似た兆候に胸を高鳴らせていると、予想外の衝撃が彼女を襲う。

 気づけば不思議な空間にいたジェーンだったが、そこで奇妙なものを目撃したあと、ふたたび気づくと、彼女は最初の廃墟に舞い戻っていた。そしてそこで、彼女が待ち焦がれていた人物――ソーと再会する。

 だが、再会を喜ぶ間もなく、ジェーンは自らの身体に異変が起きていることを知る。ソー以外の者が触れようとすると、それを凄まじい力が弾き返してしまう。ソーは、地球の医者では治せない何かに彼女が冒されている、と悟り、ジェーンをアスガルドへと連れていく。

 ジェーンの身体を冒したもの――それは、あのマレキスが作り、ソーの祖父にあたる英雄ボーが地底深く封印したはずの“エーテル”であった。その気配は、あろうことか、宇宙で機を窺っていたマレキスを目醒めさせてしまう……

[感想]

 マーヴェル・コミックのヒーローの中でも、恐らく桁違いの力を持っているのがこの『マイティ・ソー』の雷神ソーである。そもそも“神”なんだから、人間の求める戦いに駆り出すこと自体が間違いだ、という気もするが、しかし長年に亘ってキャラクター設定に試行錯誤を重ね、時代に合わせて物語のテイストを調整、遂に異なる作品世界のヒーローたちを、実写映画の世界で合流させてしまったマーヴェルだけあって、そのあたりのバランス調整は職人芸に達している。

 ただ、ソーが絡んでくると、やはりその敵も相応に強大なものが求められる。1作目は同じ世界からやって来た魔物と戦う、という構図であり、『アベンジャーズ』では前作の敵役であるロキ(トム・ヒドルストン)が招き寄せた外宇宙の精力との戦争、という構図となった。本篇では、前作とはまた異なる世界から現れた破滅の使者が敵に設定されている。

 残念ながら、本篇の敵役は、それほど印象は強くない。デザインは個性的だが、設定はぶっちゃけ有り体だ。何故か世界を殲滅することを強く望み、好機に利用すれば世界を破壊できる兵器を持っている。いちどは敗走したが、それ故に主人公、或いは彼らの世界を激しく憎悪し捲土重来を窺っている。ほんとーに、よく聞く背景で、もしこれだけが支えだったとしたら凡庸な話になっただろう。

 本篇における悪役、というのは、『マイティ・ソー』のみならず、マーヴェル・ヒーローたちが合流する『アベンジャーズ』に繋がる物語、人間関係を熟成させるために必要な布石として利用されている感がある。もちろん、手を抜いて構想しているわけではないだろうが、影が薄くなってしまうのは如何ともし難いところだろう。

 翻って、シリーズとしての要である、本来の敵役・ロキを巡るドラマの見応えは充分だ。『アベンジャーズ』にて犯した罪により永遠に牢獄に閉じ込められることになった彼に対する、ソーの兄としての複雑な想い、オーディンやその妻・フリッガ(レネ・ルッソ)との微妙な関係性といったものが点綴され、やがて訳あってソーとロキが共闘せねばならない段になると、実に振り幅の豊かなドラマが展開される。人間関係そのものも面白いが、この一連の見せ方には終始ハラハラドキドキさせられ、フィクションに深く親しんだ者なら舌を巻くはずだ。唸るほどに、上手い。これを活かすための噛ませ犬なら、ある意味では光栄な役回りとさえ言える。

 噛ませ犬、となかなか酷い表現をしてしまったが、しかしこのマレキスという敵役と演じるクライマックスのバトルシーンは、ドラマを抜きにしても充分すぎる見応えを備えている。技が豊かであるとか、撮影技術が際立っている、というわけではない。ポイントは、観客を沸かせるアイディアの多彩さだ。

 本篇は序盤でかなり特徴的な環境が形作られていくが、クライマックスにおいて、これらを最大限活用している。折角なのであまり詳しく説明はせずに、実際に観て驚き、愉しんでいただきたいが、決して激しい戦闘がもたらす興奮のみが見せどころではない、とは申し上げておこう。『アベンジャーズ』から『アイアンマン3』でほとんど極みに達したかに思われたアクション描写は、本篇においていっそう完成度を高めている。はっきり言って、これまでのマーヴェル作品のアクション描写で、本篇がいちばん好きだ、と私は断じたい。

 ロキを軸とするドラマの、膨らみと重厚な余韻をもたらす語り口も秀逸だが、本篇の魅力をいっそう際立たせているのが、主にミッドガルドの人々が演出する“笑い”にあることも言い添えておきたい。いっそ割り切って、コメディリリーフに徹したかのような奮闘振りが涙ぐましいほどだ。ジェーンの助手ダーシーと、彼女が雇ったいわば助手の助手イアンが終始ボケとツッコミを披露しているかと思えば、ジェーンの父であり、『アベンジャーズ』では重要な役回りを演じたエリック・セルヴィグ博士に至っては、まさにひと肌脱いでいる有様である。セルヴィグ博士を演じているステラン・スカルスガルドスウェーデンを代表する名優なのだが、本国のひとはどう感じるんだろう、と心配したくなるほどの爆発ぶりである。

 クライマックスのあとは、話運びが次なるマーヴェル・ユニヴァースの作品展開を想定した伏線作りが主体となってしまっているため、作品単体で眺めようとするといささか収まりが悪くなる、という難点があるにはある。だが、決して他の作品を積極的に観るつもりがなかったとしても、本篇は充分にエンタテインメントの興奮と満足とをもたらしてくれるだろう。

 ちなみに、次のマーヴェル・ユニヴァース作品は、本篇にもちらっと顔を見せた星条旗スーツの男の最新作『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』。そのあとは、未だに日本での公開情報は出ていないが、宇宙を舞台にした『Guardians of the Galaxy』が挟まり、そのあとに『アベンジャーズ2』が来るようだ。果たしてどこまで続くのかは解らないが、またこの最強のヒーローに逢えることを喜びたい。

関連作品:

インクレディブル・ハルク』/『アイアンマン』/『アイアンマン2』/『マイティ・ソー』/『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』/『アベンジャーズ』/『アイアンマン3

キャビン』/『ミッドナイト・イン・パリ』/『G.I.ジョー』/『RED/レッド リターンズ』/『ドラゴン・タトゥーの女』/『パシフィック・リム』/『清須会議

ヴァルハラ・ライジング

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