監督:堤幸彦 / 脚本:蒔田光治 / 製作:平城隆司、市川南 / エグゼクティヴプロデューサー:桑田潔、山内章弘 / 撮影:斑目重友、池田英孝 / 美術:稲垣尚夫 / 照明:川里一幸 / 監督補&編集:藤原知之 / 録音:臼井久雄 / 音楽:辻陽 / 主題歌:鬼束ちひろ『月光』 / 出演:仲間由紀恵、阿部寛、生瀬勝久、野際陽子、東山紀之、北村一輝、水原希子、中村育二、石丸謙二郎、池田鉄洋、吉田鋼太郎、大島蓉子、アベディーン・モハメッド、瀬戸陽一朗 / ナレーター:森山周一郎 / 配給:東宝
2013年日本作品 / 上映時間:1時間52分
2014年1月11日日本公開
公式サイト : http://www.yamada-ueda.com/
TOHOシネマズスカラ座にて初見(2014/01/14)
[粗筋]
日本科学技術大学の上田次郎教授(阿部寛)は精神的へなちょこだが、そんなこととはつゆ知らぬひとびとからしばしば、超常現象の謎解きや、霊能力者を自称する人間が絡んだ事件の調査を依頼される。
その日、上田の前に現れたのは、村上商事の資源開発事業部に勤める加賀美慎一(東山紀之)という人物であった。彼は現在、赤道直下にある国でレアアースの発掘事業に携わっているが、鉱脈の上に位置する集落のひとびとが、ひとりの呪術師を信奉し、移住に応じてくれずに困っているのだという。そこで上田に、呪術師のまやかしを解き明かし、住民達の目を醒まさせて欲しい、という。加賀美の上司・有田雄一(石丸謙二郎)は研究費の融通を条件に提示してくるが、その直後、有田は心臓発作で急逝した。
実は有田は、問題の呪術師に呪いをかけられており、死を予告されていた、という。加賀美に対しては虚勢を張って依頼を引き受けてしまった上田だが、ひとりで訪れるのは怖い。そこでいつものように、売れないマジシャンの山田奈緒子(仲間由紀恵)を呼び出し、適当な口実を作って同行させることにした。折しも、悪い形で世間を騒がせているところだった山田は、若干訝しがりながらも、パスポートを用意する。
空港に降り立つと、山田と上田は加賀美の案内のもと、船で熱帯雨林のただなかにある集落へと赴く。だがその途中で、上田は謎の病を発症し、瞬く間に瀕死の状態に陥ってしまった。住人たちは上田を呪術師に見せるように促し、加賀美も「土地の人々の反感を買わないためにも」とその意見に賛同する。
加賀美たちが現地支社に戻って待機するなか、山田は上田を心配し、呪術師が籠もる洞窟の入口に留まった。待ちくたびれて眠った山田は、そこで奇妙な夢を観る――
[感想]
そもそも本当に最後なのか、という疑いはあるが、とりあえずそのつもりで評しよう。と思ってると、のっけからお馴染みの習字でネタを仕掛けてくるから油断も隙もあったもんじゃない。
謎解きが主眼となったシリーズだが、しかしそういう意味では決してクオリティは高くなかった。物理的トリックにこだわりすぎるあまり、非現実的なほどに手間のかかるものになってしまったり、全体を眺めたときの整合性が悪くなってしまうことがしばしばだった。むしろこのシリーズは、あまり品はよくないがインパクトのあるギャグや随所にちりばめられた小ネタの数々、そして結末によく現れた苦い後味――時として、そんな表現では生温いほどの後味の悪さわ残すことが魅力だった。
完結篇を謳うこの作品は、だからそういう意味では理想的な締め括りである――とことんシリーズのらしさが詰め込まれている。
ファンからすると、出だしから見所がふんだんにある。前述した習字のネタはもちろん、無数の貼り紙や看板、ちょろっとだけ顔を見せるゲストなど、1回観た程度ではとうてい拾いきれないほどにネタ尽くしだ。
しかも今回は、完結篇ということを強く意識しているのだろう、出演者や流行りものにかけたネタに留まらず、シリーズ旧作に引っかけたネタが非常に多い。国の名前に、住民たちが見せる仕草など、第1作から繰り返し観ているようなひとはいちいちニヤニヤしてしまうはずだ。
他方で、謎解きとしてはやはり難がある。このシリーズではしばしば、目的を達成するために、異様なほど迂遠な過程を辿ることがあるが、しかしそもそもそれ以前に“そんな方法が必要か?”と首を傾げたくなる結果になることも珍しくなかった。主に奈緒子が、マジックのタネと相通じるところのあるインチキ能力者たちの詐術を見抜くお約束のくだりを入れるために、実際に可能(と思えるよう)な細工である必要が求められたのだろうが、それにしてもとってつけたような“マジック”が用いられることに違和感を禁じ得なかった。本篇においても、もっと素直な手順を辿れば変な疑いを招かなかっただろうに、と訝しくなる仕掛けが多かった。しかも、はっきり言えば、事件が起きる前から犯人の推測がつくほど、語りは解り易い。
だが、シンプルでも強引でも“謎解き”たらんとする意志は天晴なものだ。それが『TRICK』というシリーズの根幹である、ということをスタッフがよく理解しているからだろう。奈緒子や上田、お馴染みの矢部警部補(生瀬勝久)に秋葉刑事(池田鉄洋)、奈緒子の母・里見(野際陽子)といったレギュラーメンバーの個性に、対決する呪術師やその周囲のひとびとの突飛な人物像、といったものをくっきりと浮かび上がらせて観客をくすぐりながら、ストレートなほどの“トリック”で観客に知的な戦いを仕掛ける。そしてその隙間からは、やはり一筋縄では行かない問いかけが滲み出てくるのだ。
本篇はかなり早い段階から意識的に、シリーズ第1話のエピソードに絡めた要素を繰り出して来る。それ故に、あの時点から仄めかされていた、奈緒子にまつわる大きな謎が解き明かされるのではないか、という雰囲気を醸しだすのだが、しかし残念ながら、そういう意味では決して満足はしないだろう――そもそもあの問いかけ自体、無謀な大風呂敷に等しかったので、観る側も拘泥していないひとがほとんどだったかも知れないが。
しかし、このエピソードの秀逸なところは、今まではインチキとして切り捨てていた“霊能力者”というものに対する、従来とは異なる答を出したことだろう。これまでのエピソードでもしばしば描いていた、“偽物の力はひとを不幸にするだけなのか?”という問いかけに、本篇のような向き合い方をした点は間違いなく大団円に相応しい。観ているうちに忘れてしまいがちなので、ここで予め振っておくと、これもシリーズ恒例のプロローグ(エピグラム、と言うべきか)との関連を考えていただきたい。ずっと言及されているハリー・フーディーニのエピソードと、結末との連携の仕方も心憎く、綺麗な落とし方だ。
シリーズらしさを損なうことなく、ずっと投げかけてきた問いに対しても、誰しもを満足させるとは言わないまでも、誠実な答を提示した。繰り返すが、私は未だにこれで完結だ、と信じているわけではないし、数年後に何事も無かったかのように続篇が発表されても構わない、と考えている。だが、これで終わりだとしても、非常に納得がいく。背伸びをして大傑作を志すのではなく、ファンが欲しがっているはずの作品に徹した、快い完結篇である。
関連作品:
『エイトレンジャー』
『武士の家計簿』
『テルマエ・ロマエ』
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