丹羽多聞アンドリウ、山口幸彦 / ラインプロデューサー:後藤剛 / 撮影:今宮健太 / 編集:佐藤周、青木勝紀 / 音楽:スキャット後藤 / 主題歌:藤田恵名『ライブドライブ』 / 出演:ギンティ小林、市川力夫、青木勝紀、後藤剛、今宮健太、山口幸彦、はち、わらびん、ハブ、小原猛、木原浩勝、中山市朗、平山夢明 / 制作:シャイカー / 協力:映画秘宝編集部 / 配給:日本出版販売 / 映像ソフト発売元:KING RECORDS
2013年日本作品 / 上映時間:1時間33分
2013年7月13日日本公開
2013年8月7日映像ソフト発売 [DVD Video:amazon]
公式サイト : http://www.nagurikomi.net/
渋谷シネパレスにて初見(2013/07/13) ※初日舞台挨拶つき上映
[粗筋]
『<地獄編>』と銘打った、関東の怪奇スポット巡りの興奮醒めやらぬ――というより疲労から立ち直らないうちに、ギンティ小林ら新耳Gメンは、劇場版の撮影のために旅立った。
目的地は、沖縄。2011年、新耳Gメンたちは初となる劇場版のためにいちど上陸している土地であるが、桁外れの恐怖にメンバーの多くは「二度と来たくなかった」と語っている。だが、先の訪問で、ロケハンの段階にて恐れをなし突撃を試みなかった場所、また前回も訪れたが、あまりに広大すぎたため、本当に危険なポイントを探り出すことが出来なかった場所、そもそも情報が漏れて対象となっていなかった場所もある。本土とは異なる歴史背景や宗教観を持ち、第二次世界大戦中に多くの悲劇に見舞われたこの土地は、尋常ならざる気配をたたえたスポットが多く存在していた。
かつて水先案内人を務めてくれた、『琉球怪談』の著者である小原猛と合流すると、一同はまず、Kの塔と呼ばれるスポットを目指す。そこは前回の訪問の際、撮影を考えてロケハンを行っていたが、あまりの異様さに怯み、挑戦を断念した場所だった。ひめゆりの塔の少年兵版、と言われる場所だが、観光客の訪れはなくすっかり寂れている。小原によれば、ここはもともと目撃談が多いそうで、昨年の探索の際にはどの地を訪れても比較的平然としていられた小原でも、夜が更けたあとに訪れるのはためらうほどの場所だった。
血判状を楯に凶悪なミッションを連発し、新耳Gメンの仕切り役として貫禄を身につけてきた市川力夫はここでも、ここだからこそ尻込みするようなミッションを用意していた。ルーレットでミッションの内容と担当者を決定し、銅像と慰霊堂の2箇所にひとを送りこむ。内容そのものはシンプルだったが、やはり沖縄のスポットは本土と質が違う、ということを、改めてメンバーたちに痛感させるほど、それは過酷だった……
[感想]
前にいちど訪れた沖縄をふたたび舞台に選ぶ、という決断は、そもそも興行成績が良かった、という解りやすい事情もあった、というのが山口幸彦プロデューサーの弁だが、しかし実際に、この地が“宝の山”と呼べそうなほどに、不穏な噂を留めるスポットが多く存在しているが故だった。現時点で後編はまだ公開されていないが、前編だけ鑑賞しても、その凄味は実感できる。ここは、尋常ではない。
『<地獄編>』においては、新たに現場監督として起用された市川力夫が、それまでの丁稚扱いの鬱憤を晴らすかのように過酷で凶悪なミッションを繰り出してきた。本篇でもそのスタイルは維持しているが、しかしそういう意味での“活躍”をした、という印象がない。実際、本篇は4つのパートに分かれているが、ミッションがまともに行われるのはうち2つだけで、残るパートは趣が違う。ミッションが行われたうちの一方などは、ミッションが怖さを倍増させているのも確かだが、そもそも来てしまったことに後悔を覚えているのが画面からも伝わる。それほどに、訪れたスポットの発する禍々しさが強烈なのだ。確かに、再度劇場版で扱う価値がある。
正直なところ、怪奇映像を収穫する、という当初の目的にこだわると、今回も決して満足のいく結果ではない。今回、かなり異様な映像が撮れているのは間違いないが、恐らくあの不可思議さを理解し納得できるには、それなりに怪奇映像に多く接していて、自分なりに考察を重ねているようなひとくらいのもので、単純に“怖い映像を!”と希求する観点からはやはり物足りないだろう、と言わざるを得ない。
しかしその代わりに、音声の収穫は豊作、と言っていいレベルだ。映像を観ていても解るが、本篇の撮影現場は大半、まわりにほとんどひとの寄りつかないところで、少数精鋭での突撃を試みる新耳Gメンたち以外にひとの気配は感じられない。耳の錯覚にしても生々しすぎる、理解不能の声がところどころ収められる、このパターンはシリーズのお馴染みだが、本篇の不気味さは屈指のレベルだ。
スタッフがかなりの自信を示している後編と比較した場合、評価は変わるかも知れないが、少なくともこの前編に限って言えば、白眉はファイル002である、と断じていいように思う。前の『<沖縄編>』でも訪れたN高原ホテル廃墟を訪れるくだりだが、あまりに入り組んだ構造故に探索しきれず、撮影前に作家・平山夢明の助言を受けて、訪れるべき領域を絞り込む。このときの平山の言動自体があまりにクレイジーで観ていて笑ってしまうのだが、実際に再訪したN高原ホテルの複雑な構造、そして辿り着いた目的地の予想を超えたムードに、新耳Gメンたちは圧倒されてしまう。平山の指示したミッションを実施するはずが、けっきょくここでは何もせずに終わるのだが、その心情が頷けるうえに、決着が出来過ぎている。ものすごく笑えるが、同時にとても怖い。新耳Gメンたちらしい“怪談”を、彼ら自身がこのひと幕で体現しているのである。
まだ後編を観ていないので、全体としての評価は控えたいところだが、少なくともこの前編だけでも作品として成立しているし、物足りなさもあるにはあるが、それでもこれまでの『怪談新耳袋殴り込み!』を凌駕する傑作、と呼んでいいように私は思う。とことんバカバカしい、そのくせ背景に想いを馳せるほどに怖さが滲み出してくる――と、こういうふうに評価できるのは、初見でも波長が合うひとか、これまでの彼らの冒険に接していて、その習性を把握しているひとに限られるかも知れないけれど。
関連作品:
『怪談新耳袋 怪奇』
『怪談新耳袋 異形』
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