原題:“The Next Three Days” / オリジナル脚本:フレッド・カヴァイエ、ギョーム・ルマン『すべて彼女のために』 / 監督、脚本&製作:ポール・ハギス / 製作:マイケル・ノジック、オリヴィエ・デルポス、マルク・ミソニエ / 製作総指揮:アニエス・メントレ、アンソニー・カタガス / 撮影監督:ステファーヌ・フォンテーヌ / プロダクション・デザイナー:ローレンス・ベネット / 編集:ジョー・フランシス / 衣装:アビゲイル・マーレイ / キャスティング:ランディ・ヒラー / 音楽:ダニー・エルフマン / 出演:ラッセル・クロウ、エリザベス・バンクス、ブライアン・デネヒー、レニー・ジェームズ、オリヴィア・ワイルド、タイ・シンプキンズ、ヘレン・ケアリー、リーアム・ニーソン、マイケル・ビュイエ、ジェイソン・ペギー、アイシャ・ハインズ、RZA / ハイウェイ61フィルムズ/ライオンズゲート製作 / 配給&映像ソフト発売元:GAGA
2010年アメリカ作品 / 上映時間:2時間14分 / 日本語字幕:松浦美奈
2011年9月23日日本公開
2012年3月2日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
公式サイト : http://threedays.gaga.ne.jp/
[粗筋]
2年制大学で教師を務めるジョン・ブレナン(ラッセル・クロウ)の生活は平穏そのものだった。いささか血気盛んな妻ララ(エリザベス・バンクス)が職場と揉めて転勤する、と息巻いていることを除けば。
だが、穏やかな日々は突如として終わりを告げる。ララが、口論した上司を殺害した、として逮捕されたのである。
妻が人を殺すはずなどない、と信じるジョンは懸命に無実を証明しようと努めるが、それから3年を経ても事態は好転しなかった。ララにとって不利な証拠が多く、最高裁まで持ち込んでも勝ち目はない、と弁護士まで匙を投げる。妻を救うため、とかけずり回った挙句に、蓄えも底を尽きつつあった。
もはや、法に縋ってもララを助ける手立てはない。残る方法はただひとつ――刑務所から妻を連れ出すこと。即ち、脱獄。
だが、もともと犯罪に手を染めた経験はおろか、ひとを殴ったこともなかったジョンにとって、道は険しかった。かつて脱獄した経験を本にまとめたデイモン・ペニングトン(リーアム・ニーソン)という人物を訪ね、得た助言をもとに、パスポートの偽造や脱出経路確保のための工作に励むが、繰り返し痛い眼を見る羽目になる。
やがてララに、長期刑務所へ移送する旨が通知された。刑務所が移れば、息子もいるジョンが面会のために足繁く通うことも出来なくなる――既に猶予はなかった。ジョンは壮絶な覚悟を固め、遂に計画を実行に移す……
[感想]
本篇はフランス映画『すべて彼女のために』のハリウッド・リメイクにあたる。鑑賞に先駆けてオリジナルに接するタイミングがなかったので、どの程度踏襲しているのか、どの程度変更を加えているのかは解らないが、少なくとも本篇を見る限り、舞台をアメリカに移したことへの違和感は一切感じさせない。リメイクを手懸けるのははじめてのはずだが、さすがにオスカーを獲得しているポール・ハギス監督だけあって、そのあたりにそつはないようだ。
作りは緻密で、妥協がほとんどない。まったくの素人が、止むに止まれぬ事情から犯罪に手を染める、という作品は少なくないが、しばしば僥倖に頼りがちで、嘘くささを覗かせてしまう傾向にある。しかしこの作品は、最初から最後まで思惑通りにことは運ばない。伝手もなく、いきなり裏の人間にパスポートの偽造を依頼しようとして所持金を奪われる、という災厄に見舞われるし、刑務所の周囲を観察しその隙を窺おうとしてもなかなか突破口は見つからない。
だが、どうしても妻を刑務所から解放しなければ、自分たちの子供に母の顔を見せてやらなければ、という想いが、意地でも困難を克服する、というジョンの覚悟に結びついていく。最初はおどおどとしていたジョンの表情が次第に引き締まり、一歩一歩、着実に足許を固めていくさまは堂々たるものだ。丹念に組み立てられた脚本の力も勿論のこと、オスカー俳優ラッセル・クロウの貫禄がものを言っている。
特徴的なのは、このジョンという主人公が、最後まで冷徹になりきれないところだろう。血を流す覚悟まで固め、クライマックス手前では実際にひとを傷つけるところまで踏み込むのに、その直後、あまりに軽率な行動に及ぶ。こうしたフィクションではあまりお目にかからない描写だが、しかし主人公の人柄がはっきりと浮き彫りにされて絶妙だ。どう考えても非合理な振る舞いだが、彼の人物像とは合致しているので、その必死さも、結末の虚しさも、このくだりの最後に見せる表情にも説得力がある。
土台を築き上げていくヒリヒリとした緊張感が持続する中盤までも出色だが、やはりクライマックス、約40分にわたって繰り広げられる脱獄のくだりが圧巻だ。出来の悪いフィクションによく登場する間の抜けた警官とは正反対の、智力と優れた直感とで絶え間なくジョンたちに肉迫するナブルシ捜査官(レニー・ジェームズ)に加え、随所で遭遇する不測の事態。そのたびにドラマが繰り広げられる一方で、きちんと“細工”も用いられている。凝ったものではないが、最後の最後まで予断を許さないストーリー展開に奉仕しており、本篇のサスペンス映画としてのクオリティを更に押しあげている。
強いて難を上げるとすれば、最後の最後にちらっと明かされる、ララが容疑者として起訴された事件の真相があまりに出来過ぎていることだが、これについては、そもそも物語の端緒に過ぎないのと同時に、どれほど緻密に計画を立ててもその隙間をかいくぐってくる偶然――運命の悪戯というものの酷さ、厄介さという、本篇のサスペンスを支える要素とも一致しており、むしろ主題を裏打ちしている。
ひねりを加えつつも厚みのあるサスペンスであると同時に、犯罪というものを軸にしたドラマでもある。若干娯楽に比重を傾けたような印象を与えつつも、やはり本篇は『クラッシュ』『告発のとき』と社会派的素材を巧みな手捌きで調理したポール・ハギス監督ならではの名品と言えよう。
関連作品:
『クラッシュ』
『告発のとき』
『父親たちの星条旗』
『硫黄島からの手紙』
『レ・ミゼラブル』
『ゲスト』
『インシディアス』
『パピヨン』
『板尾創路の脱獄王』
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