『マージン・コール』

マージン・コール [DVD]

原題:“Margin Call” / 監督&脚本:J・C・チャンダー / 製作:ジョー・ジェンクス、ロバート・オグデン・バーナム、コーリー・ムーサ、マイケル・ベナローヤ、ニール・ドッドソン、ザカリー・クイント / 製作総指揮:ガシアン・エルウィズ、ローラ・リスター、ジョシュア・ブラム、カーク・ダミコ、ランディ・マニス、マイケル・コルソ、ローズ・ガングーザ / 撮影監督:フランク・デマルコ / プロダクション・デザイナー:ジョン・ペイノ / 編集:ピート・ボドロー / 衣装:キャロライン・ダンカン / 音楽:ネイサン・ラーソン / 出演:ケヴィン・スペイシーポール・ベタニージェレミー・アイアンズザカリー・クイントペン・バッジリーサイモン・ベイカーメアリー・マクドネルデミ・ムーアスタンリー・トゥッチ、アーシフ・マンドヴィ、アシュレイ・ウィリアムズ、スーザン・ブラックウェル、マリア・ディッツィア、ジミー・パルンボ、アル・サピエンザ、グレイス・ガマー / 映像ソフト発売元:TWIN×MIDSHIP

2011年アメリカ作品 / 上映時間:1時間46分 / 日本語字幕:?

第84回アカデミー賞脚本賞候補作品

日本劇場未公開

2012年2月3日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2012/08/15)



[粗筋]

 ニューヨーク、ウォール街にある金融会社で、大規模なリストラが断行された。トレーダーたちが慄然とするなか、リスク管理担当部署の管理職であるエリック・デール(スタンリー・トゥッチ)の肩が叩かれた。デールはちょうど手懸けていた仕事を部下に引き継ぎたい、と懇願するが、特殊な部署にいる彼は解雇を承諾した時点で特殊な立場に逐われており、関係者との接触、携帯電話の使用さえ禁止されていた。慌ただしく私物をまとめ、文字通りに追い出されようとしていたデールは、去り際に手を貸した部下ピーター・サリヴァン(ザカリー・クイント)に、直前まで精査していた資料を収めたUSBメモリを託す。「用心しろ」と言い残して。

 その日の終業後、デールのひと言がどうしても気にかかったサリヴァンは、託された資料を確認して、愕然とする。あとで一緒に飲みに行く約束をしていた同僚のセス・バーグマン(ペン・バッジリー)と上司のウィル・エマーソン(ポール・ベタニー)を会社に呼び戻し、資料を見せる。事態を理解したエマーソンはすぐさま、直属の上司であるサム・ロジャース(ケヴィン・スペイシー)に連絡を取った。

 デールが精査中だった資料は、住宅ローンの絡む商品だった。複数の異なる証券をまとめたもので、僅かな期間に大きな利益を上げていたが、商品の評価を確定するのに1ヶ月以上必要とする特性があり、この2週間のあいだに数回の危機が社を襲っていたことが判明する。今後発生する損失の総額は、社の総資産を上回っていた――つまり、誰も気づかないうちに、社は破滅の危機に瀕していたのだ。

 この緊急事態に、深夜にも拘わらず重役たちが招かれ、事態を把握したロジャースやサリヴァンたちを交えた会議が催された。この場の最高責任者であるジョン・トゥールド(ジェレミー・アイアンズ)に対し、若き取締役のジャレッド・コーエン(サイモン・ベイカー)はある提案をする――

[感想]

 粗筋から察しがつく人も多いだろう。本篇は世界的な恐慌を招いたリーマン・ショックをもとにしている。

 私自身は経済に疎く、本篇で描かれる出来事がどの程度まで現実に沿っているのかは解らない。だが、序盤のいっそ非人間的と言いたくなるほどの出来事を淡々とやり過ごす人々達の姿、それがたったひとつの発見を契機に、静かな狂躁状態へと突入していくさまには、異様なリアリティがある。あまりに突拍子もない事態、唐突に窮地に晒された人間が示す反応というものは、チープなドラマで見せられるように激しくはないはずなのだ。本篇のように、淡々と事態に流され、己の無力さに打ちひしがれるしかない。

 それにしても、ここで描かれる出来事は、あまりに常軌を逸している。そうとは知らないあいだに破綻に向かっていたことが発見されると、途端に生じる極端極まりない変化。あまりに冷酷に会社や社員はおろか、これを契機に大きく乱れる世界経済をも切り捨てる経営者たち。その損失を最小限に留めるために、残ったトレーダーたちに命じられる最後の仕事の内容など、呆気に取られるほどだ。

 本篇に登場する人物たちはいずれも、決してキャラクターとして際立ったものはない。まるで死神のように到来する経営者達は無論のこと、彼らによって翻弄される現場の人間達も、前夜まで大きな金を動かし豪遊していたさまはちらつかせるが、しかし人物的にはさほど突出したものはない。そこに説得力があるのは、物語の中心で立ち回るケヴィン・スペイシーを筆頭に、ポール・ベタニースタンリー・トゥッチら、映画において主役級で登場することは多くないが、存在感のある脇役たちがきっちりと締めているからだ。彼らが醸しだすムードは“無常観”とも呼べる悲哀が漂い、物語が進むにつれてじんわりとのしかかってくる。序盤で肩を叩かれた人々のほうがむしろ幸いだった、とさえ思える終幕は、決して派手な事件など起きていないのに印象的だ。

 この物語に救いはない。現実でも、この経済的衝撃は未だに尾を引いているが、そこに安易な安心や希望を灯したりしなかったのは、むしろ制作者達の良心だろう。観終わったあと、資本主義とはいったい何なのか、ということに想いを馳せずにいられない、静かだが重厚な佳作である。受賞こそしなかったが、アカデミー賞のオリジナル脚本部門にノミネートされたのも納得出来る――そして、地味とはいえ、このレベルでも劇場公開なしに終わってしまうのが少々訝しい。

関連作品:

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