監督:田中徳三 / 脚本:八尋不二 / 製作:三浦信夫 / 企画:浅井昭三郎 / 撮影:武田千吉郎 / 美術:内藤昭 / 照明:岡本健一 / 編集:菅沼完二 / 録音:林土太郎 / 音楽:飯田三郎 / 出演:市川雷蔵、本郷功次郎、淡路恵子、中村玉緒、楠トシエ、中田ダイマル、中田ラケット、和田弘とマヒナ・スターズ、千葉敏郎、伊沢一郎、水原浩一、本郷秀雄、小川虎之助、寺島雄作、葛木香一、光岡龍三郎、伊達三郎、尾上栄五郎、天野一郎、石原須磨男、玉置一恵、遠山金四郎、浜田雄史、藤川準、越川一、井上武夫、河田好太郎、沖時男、松岡良樹、谷本悟視 / 配給:大映 / 映像ソフト発売元:角川映画
1959年日本作品 / 上映時間:1時間38分
1959年8月1日日本公開
2009年10月23日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
DVD Videoにて初見(2012/05/04)
[粗筋]
長之助(本郷功次郎)は時の将軍の血筋だが、四十人目の妾の子であるため、三州・岡崎で部屋住みの身分として長年預けられている。
その命運が突如一転した。甲斐国高取藩の藩主が急逝、世継ぎがいないために、急遽将軍の部屋住みの息子たちのなかから、跡継をクジ引きで選ぶこととなった。そして引き立てられたのが、他でもない長之助であった。
しかし、自家と縁のある庶子に継がせる腹づもりでいた老中は、長之助を亡き者にしようと、部下に命じて刺客を放った。幼少のみぎりから長之助に仕えてきた平左衛門(小川虎之助)は一計を講じ、無人の籠を担いで刺客たちの目をごまかす一方、長之助に股旅姿で別行動を取らせた。
だが、いつまでも敵の目を欺くことは出来ない。かねてよりたびたび縁のあった、本物の渡世人・半次郎(市川雷蔵)とともに逗留した宿でまたしても襲撃を受け、半次郎の助けもあって辛うじて撃退したものの、平左衛門ら臣下はすべて殺されてしまった。
困ったのは半次郎である。それまで長之助を半端な若造、程度に見ていた半次郎だが、今際のきわに平左衛門からその身分を明かされ、将軍にお目通りする江戸まで送り届けて欲しい、と懇願されてしまった。乗り気ではなかったが、命を賭した男の頼みを断り切れず、こうして世間知らずの若君と、情に厚い渡世人の、奇妙な旅路が始まったのである――
[感想]
『濡れ髪剣法』に続くシリーズ2作目、とは言い条、内容にこれといった繋がりはない。役柄どころか監督・脚本まで異なっていて、共通しているのは主演の市川雷蔵を筆頭に、一部キャストが共通していることぐらいだ。前作の昼行灯な若君を彷彿とさせるキャラクターを、一転して世知に長けた渡世人という役柄に扮した雷蔵が教え諭し、旅を共にする、というあたりの趣向が繋がっている、と言えなくもないが、恐らくそれほど拘ってはいない。
だが、観はじめると、そんな繋がりなど気にならなくなるほど、単純に面白い。やはり前作を彷彿とさせる若君の滑稽な振る舞いに、颯爽としながらも女関係や奇妙な縁に翻弄される渡世人・雷蔵の描写が実に洒脱だ。
若君は終始命を狙われ、途中で臣下がすべて倒れてしまうなど、やたらと剣呑な展開を繰り広げるのに、妙に暗さがない。最後まで漢気を示す半次郎と、危機にも拘わらずとぼけた言動を保つ長之助の人物像もさることながら、漫才コンビの中田ダイマル・ラケットを随所に登場させたり、宿の番頭に和田弘とマヒナ・スターズを配し美しい歌声を披露させたりと、時代劇であることに固執しない自由な趣向を採り入れ、終始陽気なムードを醸成する工夫が見受けられる。
そうしてコミカルに話を運びながらも、長之助とおさき(中村玉緒)のロマンスも含め、きちんとドラマを組み込んで、結末の爽快なカタルシスに繋げていく手管も見事だ。ようやく辿り着いた将軍の御前で長之助が切る啖呵は痛快極まりない。
ただ、そのうえであの結論、というのが個人的にはすぐに承服しかねた。確かに、あの啖呵を切った上であれば普通はあのラストシーンになるのは必然、という気もするが、ここで少し哀切な余韻を残しても良かったように思う。穿った見方をすれば、あの締め括りは市川雷蔵という俳優の背景を象徴している、とも取れるし、終始軽快なトーンを保った本篇には相応しい結末であるのも事実なのだが。
と、ラストにちょっと違和感を覚えたために、個人的には前作より少々落ちる、という印象を受けたが、いずれにせよ昨今の、大作ばかりになってしまった時代劇映画では醸せない、いい意味での“軽さ”が横溢した、優れた娯楽映画である。
……前作でも謎だった“濡れ髪”の意味は依然として解らずじまいでしたが、この際深く掘り下げて調べたりせず、最後まで追いかけてみようと思います。
関連作品:
『濡れ髪剣法』
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