原題:“Tower Heist” / 監督:ブレット・ラトナー / 原案:アダム・クーパー、ビル・コラージュ、テッド・グリフィン / 脚本:テッド・グリフィン、ジェフ・ナサンソン / 製作:ブライアン・グレイザー、エディ・マーフィ、キム・ロス / 製作総指揮:ビル・カラッロ、カレン・ケーラ・シャーウッド / 撮影監督:ダンテ・スピノッティ / プロダクション・デザイナー:クリスティ・ズィー / 編集:マーク・ヘルフリッチ / 衣装:サラ・エドワーズ / 視覚効果監修:マーク・ラッセル / 音楽:クリストフ・ベック / 出演:ベン・スティラー、エディ・マーフィ、ケイシー・アフレック、アラン・アルダ、マシュー・ブロデリック、マイケル・ペーニャ、ティア・レオーニ、ガボレイ・シディベ、ジャド・ハーシュ、スティーヴン・マッキンレー・ヘンダーソン、ジェリコ・イヴァネク、ロバート・ダウニー / 配給:東宝東和
2011年アメリカ作品 / 上映時間:1時間44分 / 日本語字幕:松浦美奈
2012年2月3日日本公開
公式サイト : http://penthouse-movie.com/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2012/02/03)
[粗筋]
ジョシュ・コヴァックス(ベン・スティラー)は、マンハッタン随一の高級マンション“ザ・タワー”の居住者向けサービスを統括するマネージャーとして、住人からも職員からも信頼が厚い。規律を守る一方で、努力する従業員には配慮を行い、住民達にはその生活や価値観に添って臨機応変に当たる。財界の大物や芸能人もいる住民達に比べれば給料は安いが、それでも充実した日々を送っていた。
そのジョシュの自尊心が、ある日突如として打ち砕かれる出来事が起きる。“ザ・タワー”最上階のペントハウスに暮らし、理事も務めているアーサー・ショウ(アラン・アルダ)が、証券詐欺の容疑でFBIに逮捕されたのだ。多くの投資家が騙され、集めた資金は行方知れずとなっているという。
プライヴェートで、ネットを介してチェスの相手をするほどショウと親しくなっていたジョシュは愕然とする。彼はショウを信頼し、「3倍に増やしてやる」という甘言に乗せられて、従業員たちの年金も任せていたのだ。まだ疑惑の段階で、間違いの可能性もある、と従業員にも自分自身にも言い聞かせ、平常通りの勤務に就いたジョシュだったが、古参のドアマンであるレスター(スティーヴン・マッキンレー・ヘンダーソン)が自殺を図るに至って、平静を失う。間もなく引退予定だったレスターは、念願の世界一周旅行に備えて、全財産をショウに託していたのだ。
ショウは保釈金を払い、一切の外出を禁じる、という条件でペントハウスに舞い戻っていた。ジョシュは裏切りに対し、ショウの目の前で、彼が室内に飾っていた稀少な高級車にゴルフクラブを叩きつけることで応えたが、当然のようにその直後、上司から解雇されてしまう。
そんな彼をいたわったのは、意外にもFBIの捜査官クレア(ティア・レオーニ)だった。なかなか尻尾を出さないショウに手を焼いていたFBIは、ジョシュの暴挙に密かに溜飲を下げていたのだ。そしてクレアは言う。農民として城主に奪われたことが悔しければ、蜂起すればいい、と。
未だにショウの財産は発見されていない。それは恐らく、逃走資金として用いるために、未だペントハウスに隠されている。ジョシュはそれを、奪い返すことを決意する――
[感想]
ブレット・ラトナーは安定感のある職人監督である、と思う。全作手懸けた『ラッシュアワー』シリーズで注目されたのち、『羊たちの沈黙』『ハンニバル』の大ヒットを受けて再映画化された『レッド・ドラゴン』を担当、評価の高かった2作品を前に置くプレッシャーのなか、スピード感のあるサスペンスとして完成させ、娯楽映画としては先行作を上回る出来映えを示した。ブライアン・シンガー監督が別作品でメガフォンを取ることとなり空席になった『X-MEN』シリーズ完結篇の監督に代わって座り、堅実に仕上げたことも記憶に新しい。娯楽映画を撮らせて、現在最も不安のない監督ではなかろうか。
シリーズものではない本篇も、見事な出来映えだ。
コメディの要素を色濃くしたクライム・サスペンスだが、この両者は相性がいいようでいて、匙加減が難しい。コメディとしての側面を強調するとサスペンスやトリックがおろそかになり、後者に力を注ぐとコメディ部分が浮いてしまう。本篇はその点、かなり絶妙なバランスを保っているのだ。
尺の半分くらいまでは、大前提を築くことに費やされるが、ここで提示される人物像や状況の設定が実に巧い。中心人物であるジョシュは真面目で誠実な仕事ぶりが観ていても好感が持てる人柄だが、その責任感が逆に中盤以降の犯行計画に繋がっていく。
この序盤の描写が後半の強奪計画に繋がる伏線やミスリードになっていくのだが、それがおおむね、ユーモアのかたちで提示されているのだ。何処がどう、と言うとネタばらしになりかねないので詳しくは語らないが、無駄がない、というよりは程よく無駄を鏤めていることが、本篇の愉しさ、痛快さに貢献しているのだ。
そうして積み上げられた要素が生み出す終盤の緊張感、牽引力が素晴らしい。次から次へとトラブルが発生し、立ち往生を強いられながらも、すぐに新しい変化が齎されて興奮を煽る。情報を提示するタイミングにも工夫を凝らして終始意外性を演出する手管も巧みだ。出来事自体のヴィジュアル・イメージも鮮烈で、映画としての醍醐味がみっちりと詰めこまれている感がある。
唯一惜しむらくは、いい役者揃いなのに各個の見せ場が全体に限られていることだろう。職人監督らしく、まったく見せ場なしに終わっているキャラクターは少ないのだが、これだけ雰囲気がある俳優なのだからもっと活かしてくれれば、という嫌味は否めない。特にエディ・マーフィは控えめにしすぎた印象がある――もっとも本篇はエディ・マーフィ自身が製作に名を連ねていることから、自ら進んで控えめな立ち位置を選んだと推測される。自分が過剰に目立つよりも、匙加減を監督に委ね、ベン・スティラーを中心にしたアンサンブルのなかで己の役割を果たしていることは、むしろ映画人としての成熟と取れる。
大掛かりな仕掛けの数々は少々乱暴な印象を与えるものの、伏線はきっちりと用意されているので驚きも爽快感も著しい。現実的な部分も残しつつ、痛快な余韻を齎すラストは逸品だ。
教訓めいた要素も、シチュエーションがたたえる深みというものにも乏しいが、しかし娯楽映画の醍醐味はきっちりと詰まっている。職人監督とクライム・サスペンスに実績のある脚本家、そして力のある俳優たちが顔を揃えたからこそ成し得た、粋な1本である。
関連作品:
『レッド・ドラゴン』
『ラッシュアワー3』
『オーシャンズ11』
『デイブは宇宙船』
『プレシャス』
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