原作:北尾トロ / 監督:豊島圭介 / 脚本:アサダアツシ / 製作:佐竹一美、北川直樹、日下部孝一、原田学 / プロデューサー:宇田川寧 / アソシエイトプロデューサー:杉山剛、片山宣 / 撮影:木村信也 / 照明:尾下栄治 / 美術:福田宣 / VFX:鹿角剛司 / 編集:相良直一郎 / スタイリスト:新崎みのり / ヘアメイク:清水ちえこ / 音楽:スキャット後藤 / 主題歌:バービーボーイズ『ごめんなさい』 / 出演:設楽統、片瀬那奈、螢雪次朗、村上航、尾上寛之、鈴木砂羽、木村了、堀部圭亮、斎藤工、徳永えり、大石吾朗、前田健、広川三憲、佐藤真弓、阿蘇山大噴火、日村勇紀、竹財輝之助、杉作J太郎、市川しんぺー、千葉雅子、モト冬樹、平田満 / 配給:ゼアリズエンタープライズ / 映像ソフト発売元:Aniplex Inc.
2010年日本作品 / 上映時間:1時間36分
2010年11月6日日本公開
2011年5月25日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]
公式サイト : http://www.do-suka.jp/ ※閉鎖済
DVD Videoにて初見(2012/01/30)
[粗筋]
雑誌記事や放送台本を執筆しているライターの南波タモツ(設楽統)はある日、映画プロデューサーの須藤光子(鈴木砂羽)から裁判ものの脚本執筆を依頼される。「ネチネチと取材しなさい」と指示された南波は、実情を知るために裁判の傍聴を始めた。
最初は仕事のため嫌々足を運んでいた南波だったが、間もなく彼は裁判の“面白さ”に気づく。満席で立ち見まで入っている裁判があるかと思えば、傍聴人が皆無で裁判長も弁護士もやる気のない法廷がある。真面目くさった顔で万引きされたAVのタイトルを読み上げる検事に、ろくでもない理由で麻薬に手を出したことを告白する被告、ヤクザで埋めつくされた傍聴席、等々。
ほどなく南波は裁判所で、“傍聴マニア”を標榜する人々と知己を得た。10年以上のキャリアを誇るヴェテラン西村幸吉(螢雪次朗)、裁判官の人柄に精通する谷川哲也(村上航)、裁判所に出入りする女性にやたらと詳しい永田邦明(尾上寛之)。彼らから裁判を“愉しむ”コツを学んだ南波は、もはや脚本の執筆そっちのけで傍聴にハマっていく……
[感想]
原作は、潔く裁判傍聴を野次馬的な娯楽と割り切り、そこで繰り広げられる人間模様の奇妙さ、滑稽さに着目して描いたエッセイであるらしい(私は未読なので断言は避けたい)。つまり、視点人物がいて、そのドラマを追った類のものではないので、そのまま映画化することは出来なかったと思われる。それ故に、元々裁判に興味のなかったフリーライター、という主人公を用意し、終盤に傍聴人だからこその“活躍”を組み込んだわけだ。その工夫は決して間違っていない。
ただ、本篇を観たところ、率直に言えば映画自体もそこで大きく割り切って、本来映画の題材にはならないくらいの小さな事件で人々が晒す表情を剔出していくに留めても良かったように思う。残念ながら、この題材をせめてストーリーとして成立させるために用いた工夫が、本篇の後味を却って微妙なものにしている。着眼点はいいし、あのオチも本篇の世界観からは逸脱していないのだが、なまじ終盤で明白なストーリー仕立てにしてしまったが故に、最後の最後で据わりが悪くなっているのだ。
しかし、個々の裁判の描き方、それを傍聴する人々の表情など、細かな部分は愉しく、序盤は明確な筋もない状態なのに飽きさせない。それぞれの裁判に、たとえば主演・設楽統の相方である日村勇紀が被告役で登場していたり、検事としてさらっと平田満のような大物がちょこっと顔を出していたり、という愉しさもあるが、何よりそこでの細かなやり取り、駆け引きが魅力的なのだ。主人公である南波が知識のないまま傍聴した裁判の“登場人物”について、あとづけで傍聴人仲間たちが解説を施して膨らませる、という構成の妙もあったりと、なかなか憎い巧さも示している。
お笑い芸人・バナナマンの設楽統が主演しているから、というばかりではなく、本篇はいわば、法廷というものを題材にしたコントと捉えたほうが素直に愉しめるかも知れない。それもテレビや、芸人のネタとして大袈裟に描いたものではなく、実際の傍聴記録をベースに、滑稽だがリアルに描き出したコントだ。映画としての体裁を整えようとした部分がどうにも受け手を選ぶし、映像的にも率直に言って安っぽいので、そういう捉え方がいちばん無難ではなかろうか。
とは言うものの、個人的に本篇の結論は決して悪くない、と思う。いささかシニカルな締め括りだが、人間にはこういう側面があり、折り合いをつけながらやり過ごすしかないのだから。
何にせよ、いわゆる“裁判もの”ドラマの醍醐味である逆転劇、感動を呼ぶ背景、などといったものに期待するような人には向かない代物だ。そういう月並みさに飽き足らない人であれば、きっと愉しめるだろう。
関連作品:
『コワイ女』
『ソフトボーイ』
『ステキな金縛り』
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