クレーム対策のクレーム。

 昨晩、クレームについて、客側・店側双方からとんでもないものを羅列するという趣向のシリーズ特番をやっていました。自分でもけっこー無茶な人間だと自覚のある私は自戒もこめて毎回チェックしているのですが、昨日の放送分を観ていて、どーも気になったことがある。

 焼き肉チェーンの牛角は、“クレームは宝の山”と称して、定期的にクレーム対策会議を催し、内容を確認すると共にサービスの向上に努めているとか。で、その会議の模様や、社長自らが抜き打ちで行う支店サービスの確認の様子、更には実際の店頭における対応を映したりしていた。

 客は間違ったことを言わない、というその姿勢と覚悟は好ましい。クレーム例として挙げられていた、テーブルがぎとぎとしている、オーダーが遅い、などは確かにあってはならないことで、即刻改善すべきでしょう。しかし、だがしかし。

 ……それは、客に向かって見せていい部分なのか?

 個人的に接客業というのは、決して従業員ひとりひとりで見てもらえない点こそ難しいと考えます。客は前に出て来た店員の不手際に、その店舗、ひいてはチェーン店全体の粗を見出すことになる。多分そこまでは解っているのでしょうが、だからこそやってはいけないことに、客の前で従業員を叱りとばすというのがあります。

 幾ら失態を犯した従業員であっても、上司が客の前でその従業員を叱責することは決してしてはならない。何故なら、客からすればそういう従業員教育をしている上司自体も悪い、と捉えられることと、そうでなくても腹を立てている客にとって、目の前で負の感情を顕わにされることは更なる怒りにも繋がりかねない。一緒に腹を立てている人間がいることで中和されることもありますが、しかしそうしてスケープゴートにされた従業員にしてみれば、士気が落ちることは確実であり、その後の従業員育成にとってあまり有効ではない、従って今後もいい店員が育つことは見込めない、という捉え方も客側にしてみれば可能なのです。

 ですから、仮に上司として注意し指導する必要があったとしても、決して客の前ではやってはいけないのです。昔、某家電量販店にて私の前でそれをやった人物がいましたが、もし今なら私は容赦なく「裏でやれ」とその上司のほうに怒りの矛先を向け直すでしょう。当時はまだ控え目だったのでやりませんでしたけど。

 昨晩の番組で疑問に感じたのは、ここ。仮に、こうして客に対して誠実な対応をしていますよ、というアピールをしたいにしても、従業員や部下に対して厳しい言葉を吐く現場を、たとえテレビであっても見せてよかったのか、ということ。

 実際何箇所かで、各地のマネージャーや従業員を上司、それも幹部クラスの人間が叱っていた場面があったのですが、率直に言って、あまりにも口の利き方が汚くて見ていられなかった。

 別にテレビでどんな汚い言葉が使われていようと普段は気にしませんし否定はしないほうですが、この場合、大前提に彼らがサービス業に従事している人間である、という事実がある。しかも虚構ではなく、現実としてです。となれば、いずれ客になるかも知れない人間が見ているかもしれないテレビに映る場面であんな汚い言葉を使っている人間達が経営するチェーン店に足を運ぶ気になれるか。しかも、食事をするところだというのに。

 クレームにサービス向上への契機を求める姿勢は望ましいと思う。実際にやってきたから成長したのでしょう。しかし昨晩の番組で見せたのは、それに驕る上層部達の不愉快な姿でしかない。もしクレームに対して誠実に対処する姿勢を見せるにしても、上司が口汚く叱りとばす場面など見せない、仮にその場合は放送させない程度の配慮が出来ないようでは、正直まだまだ目配りは行き届いていない、またこの程度の管理能力では従業員たちに目が行き届くはずもない――必然的に、クレームが減少することはない経営の仕方しかしていないのだろう、と判断できるのです。

 恐ろしく穿ちすぎな思考なので、そんなに同調する人はいないだろうとは思いつつも、しかしこういう見方が出来ることは事実です。少なくともここにひとり、昨晩の番組を見て、「なんか不愉快な経営の仕方をしてそうだから、牛角には立ち寄るまい」と思った人間がいる、ということぐらいは主張しておきます。ちなみに上でちらと触れた家電量販店、私はその後しばらくの間、本当に足を向けるのを止めました。

 ――仮にこれをクレームとして突きつけたらどう反応するのか、ちょっと興味はありましたけど、さすがに底意地が悪いのでやめときます。

 ちなみに番組自体にはそれほど問題は感じません。ちゃんと店側からも客側からも問題を拾っているし、上のようにクレームを意識的に活用しようとする立場もあれば、明らかに店を困らせようとする悪意のある苦情に対する店側の苦闘ぶりも披露していて、短い尺のなかで視点にバランスが保たれている。要は、そこで題材にされるからこそ、扱われ方に慎重になっていない牛角上層部の態度が引っ掛かるのです。そこまで拘っていたら本当に賞賛してもいいんですけどね。

コメント

  1. 冬野 より:

    改善の契機になりうるクレームの大半は、「それ以前に従業員が指摘しているもんなんですよ。上層部がそれを無視しただけでしょ」 とは、某社の相談室時代の私の口癖。全エリアの相談室と経営陣が集まっての会議で、よくその件で紛糾したものです。お客に言われて気が付いたなんていうのは、無能なやつらの後付けの言い訳ですよ。実はとっくの昔に気づいてるのが大半。

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