『ブラック・マスク』

ブラック・マスク  [DVD]

原題:“黒侠” / 監督:ダニエル・リー / 脚本:ツイ・ハーク、コアン・ホイ、テディ・チャン、ジョー・マ / 製作:ツイ・ハーク / 撮影監督:トニー・チャン / 美術:エディ・マー、ビル・ルイ / 編集:チュン・カーファイ / 特殊効果:新視覚工作室 / アクション監督:ユエン・ウーピン / 音楽:テディ・ロビン / 出演:ジェット・リーラウ・チンワンカレン・モク、フランソワーズ・イップ、アンソニー・ウォン、パトリック・ラン、ション・シンシン / 配給:ヘラルド / 映像ソフト発売元:Twin

1996年香港作品 / 上映時間:1時間39分 / 日本語字幕:林完治

1999年2月6日日本公開

2011年2月25日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2011/11/24)



[粗筋]

 近未来の香港。改造と洗脳で生み出された戦士で構成された“701部隊”は、だがあまりに強大な力を持ってしまったがゆえに政府によって抹殺されることとなった。部隊は懸命の抵抗を図り、ごく一部の者だけが辛うじて生き延びる。

 そんななかのひとり、チョイ(ジェット・リー)は己の無感覚と戦闘能力の高さを懸命に押し隠し、図書館の職員として身を潜めて暮らしはじめていた。黙々と働き、使う目的もなく給料を貯めているだけのチョイを同僚たちは“マジメ君”と呼びからかっているが、当人は気に留めていない。

 チョイが唯一、親しく付き合っているのが、香港警察に勤めるシェク警部(ラウ・チンワン)である。「素性は訊ねない」というチョイの身勝手な条件さえ呑んで、軟弱を装うチョイを、身を挺して守るシェクに、チョイは一目置いていた。

 ちょうどその頃、香港で麻薬密売人が大量に虐殺される、という事件が起きる。更にはその組織の幹部たちが襲われ、ひとりが重傷で発見された。ボスは心臓に爆弾を仕掛けられ、わざと発見され収容されるよう仕向けられたのだ。その事実に気づいたチョイは、関係者を装いシェクに連絡を取るが、一歩間に合わず、爆弾は爆発してしまう。この経緯で、シェクは初めてチョイの素性に疑念を抱く。

 麻薬組織は、当初売人の殺害を疑われていた幹部カク(アンソニー・ウォン)を残して壊滅状態となった。恐れを為したカクは警察に保護を求め、シェクは事情聴取のためにカクのもとを訪ねるが、そこへ何者かが襲撃してくる。混戦状態のなか、窮地に陥ったシェクを救ったのは、黒い覆面姿の男――それは、友人を守るために、隠していた爪を剥き出したチョイであった。

[感想]

 いわば香港版“仮面ライダー”とでも言いたくなるような筋立てである。根底の設定は子供たちにとっても馴染みやすいヒーローものの基本に則りながら、しかし作りは見事に香港映画らしさに彩られている。

 1970年から1990年代ぐらいの香港映画を立て続けに観てきて、基本的に話作りは雑、という印象を強く受けたのだが、本篇もご多分に漏れず、かなり雑だ。

 麻薬組織を狙う動機などは悪くないのだが、そのための計画の迂遠さがそもそも動機を破綻させてしまっている(あの資金があるなら、まずそっちに金を使ったほうがいいだろうに!)し、行動の大掛かりさに大して全般にメリットが乏しいのが気にかかる。

 不自然さは主人公であるチョイの側でも同様で、まずどういう経緯でシェクと親しくなったのか。相当な偏屈なので、よほどの理由がなければ胸襟を開かないように思えるのだが、にもかかわらずどうして「素性は訊ねない」という条件を呑んでまでチョイと友人になったのか。そのあたりは敢えて伏せているとしても、いざシェクが窮地に陥ってからのチョイの振る舞いにところどころ筋が通っていないのも気にかかる。わざわざマスクをして、素性を隠して庇うのなら、もっと徹底すればいいだろうに、爆弾事件ではあっさりチョイを名乗ってしまっているのは迂闊すぎる。

 しかし本篇のいちばんの問題は、全般に演出のテンポが悪いことだろう。音楽が画面と合っておらずしばしばぶっつりと切れる、というのは最たるもので、全般に間の取り方、雰囲気の盛り上げ方が拙い。折角素材は悪くないのに、と観ながらしばし苛立つほどである。

 本当に、素材は悪くないのだ。背景の大雑把さ、細部の詰めの甘さはあるが、ヒーローものの王道になりうる設定を、基本的には活かしたプロットとなっている。そこへ香港のお家芸とも言えるワイヤーを用いた激しくも華麗なアクションを組み込むことで、本邦の『仮面ライダー』のような作品とも、『スパイダーマン』のヒットを境に隆盛を極めたアメコミ原作によるヒーロー・アクションとも異なる魅力を生み出すことに成功している。

 このスタイルに、ジェット・リーという、アクションの美しさでは右に出る者のない俳優がぴったりと嵌っている。図書館員という仮の姿の際に見せる、とぼけた愛嬌のある表情と、アクションの切れの良さが巧くコントラストを為しており、ジェット・リーの持ち味と溶けあっている。

 そんな主人公の周囲に配された、シェク警部と図書館の同僚ステイシー(カレン・モク)というキャラクターも絶妙だ。かたや色恋とは無縁で、男臭く友情に厚い仕事バカぶりでチョイを揺り起こし、もうひとりは恋に生きる乙女だがそれ故にチョイの心を癒すと共に終盤では彼を支える役回りをも演じる。もう少しそれぞれのドラマを掘り下げて説得力を増すなり、感動を膨らますことも出来ただろうに、と思われるが、少なくとも彼らが活き活きしていることで、作品はだいぶ救われている。

 ハリウッド産超大作に挑む、というわりにはあちこち洗練されていない部分が多すぎるが、少なくともヒーローものならではのコク、魅力は横溢しており、観ていて惹きこまれる作品であることは確かだ。出来れば同じスタッフ、キャストで続きを作って完成度を高めて欲しかったところだが、生憎続篇でジェット・リーは降板してしまっている――それでもいずれ鑑賞してみるつもりだが、どうにも勿体ない話である。ジェットによる“ブラック・マスク”、似合っていたと思うのだが。

関連作品:

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