六とん2

六とん2 『六とん2』

蘇部健一

判型:新書判

レーベル:講談社ノベルス

版元:講談社

発行:2005年10月5日

isbn:4061824449

本体価格:800円

商品ページ:[bk1amazon]

 第3回メフィスト賞を受賞、そのあまりにも突拍子もなくお馬鹿な仕掛けの数々により斯界の話題を攫った『六枚のとんかつ』。あの衝撃が八年を経てふたたび甦った。『六とん』の探偵役・古藤と保険調査員の“私”のエピソードの他、『動かぬ証拠』の半下石刑事が活躍する作品四本、新境地となるファンタジックな短篇四本を合わせた闇鍋感覚の作品集。

 ……えっと。

 なんかこの方、感性がおかしいと思うんです。

『六とん』のキャラクターを引き継いだ三本と半下石刑事の「午前一時のシンデレラ」はいずれも謎にすらなっていないし、新機軸であるグループCにしても「誓いのホームラン」と「叶わぬ想い」は悪趣味すぎて笑う気にもなれない。全体を通してやや出色と感じられるエピソードは「読めない局面」の一本きりだった。「地球最後の日?」は12ページでも長すぎる印象だし、「きみがくれたメロディ」はこの作品集では良心的だが出がらしもいいところのネタに何ら新しい工夫を施していないので逆に不快感を覚える。

 だいたい仕掛け以外の描写も全般に妙なのだ。やたらと説明的な会話が多く、道徳や善悪判断、整合性の基準も微妙にずれていると感じられる箇所が多い。「誓いのホームラン」など、結末で明かされることが仮にもう少し早かったところで、たぶん状況に違いはなかったはずで、実はオチにすらなっていないし、「叶わぬ想い」や「きみがくれたメロディ」のタイム・パラドックスに対する認識の甘さには失笑するほかない。また特に細かいところだが、「きみがくれたメロディ」では“味噌汁にごはんを入れるのを見て愕然とする”“それをやって大笑いされた”という描写があるのだが、味噌汁を御飯にかけようが御飯を味噌汁にぶちこもうが趣味と手順の違いでしかないんだからその程度で大笑いする感性のほうが相当奇特だと思うのだが描写をみる限り著者はそういう点にまったく無自覚であるらしいのが不思議で仕方ない。それで議論になった、として笑い話にするなら兎も角、こういうところで両者の共感を生み出そうとする思考がどうにも解らない。

 ネタの掘り下げは甘いし叙述も思慮に欠いているのだが、しかし詰まらなかったかと訊かれると、そんなことはなかったりする――全篇を覆う、どこに焦点を合わせようとしても微妙にずれてしまう微妙な感覚、じわじわと湧いてくる生温い笑いともつかぬ感情が、変に癖になるのである。なんじゃそりゃ、なんでそういう話になるんだ、と激しく苛立ちツッコミを入れまくりながら、そういう自分が次第に楽しくなってきてしまう。怖ろしいことに、楽しいのである。

 尤も、誰にもそんな一種自虐的な読み方が出来るはずはないと思うので、間違ってもお薦めはしない。ただ、覚悟の上挑んでみるのも一興である――私の記憶に刻まれた印象を信じるなら、この脱力感、『六枚のとんかつ』の比ではない。

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