『食卓にビールを4』
判型:文庫判 レーベル : 富士見ミステリー文庫 版元:富士見書房 発行:平成17年9月15日 isbn:4829163178 本体価格:540円 |
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夏が訪れても相変わらずマイペースな人妻女子高生が、何故かそこいらに跳梁跋扈する宇宙人さんとかSF的トラブルをてきとーに解消してしまう、センス・オブ・ワンダーの大いなる無駄遣いなシリーズ七ヶ月ぶりの第四巻。地鎮祭へのちょっとした興味から何故か地底に潜む陰謀と対決する羽目になる『地鎮祭篇』、やな頭痛に悩まされて検診に行ったら躰が言うことを聞かなくなる『MRI篇』、合宿の花である怪談で戯れようとしていたら何故か侵略者が釣れてしまう『合宿篇』など、全八話を収録。ちなみにカバーみたいな水着姿も海も本編には登場しません。
第一巻・二巻で垣間見せた“私”と旦那様の秘密っぽい要素は何処へやら、ただ行く先々で意味もなく不思議事件に遭遇して、なんか知らないうちに解決してしまうという話ばっかりに。いや、そのグダグダっぷりが楽しいのは確かだし、それだけありゃ充分なのだが。 話数を重ねるごとに趣向に筆が慣れてきたのか、全篇30ページ以下だというのに地球規模の危機はおろか銀河系クラスの脅威まで盛り込んでいるのに、前巻あたりのような溢れそうな感覚がなくなっている。ただ単にこっちも慣らされてしまっただけ、という気もするが、ヴォリュームに発想のサイズが合っているものが増えていることは間違いない。 つまり、従来以上に話が日常レベルまで降りてきている。しかし登場する宇宙人さんたちのやろうとしていることの壮大さはあんまり変わっていないから、著者の両者のバランスを保つ手管が上達しているのだろう。普通そんな技術が必要か、とは思うが本編の場合は大事なのだから、これは歓迎すべきことだと思う。この調子で延々無意味に書き継いでいただきたい。 しかし毎度不思議に思うことなのだが、果たしてこの話の主人公は本当に16歳の女子高生なのだろうか? 作家として稼いでいるくらいだから(そういや本巻では執筆中云々という描写がずいぶん減っていたような……)知識量は一般の女子高生より多いだろうと推測できても、全般に発想が年寄りじみていたり、経験がなければ言えそうもないことを口にしたり、所帯じみている傾向が……所帯じみているのは実際所帯を持っているのだから仕方ないにしても、“人妻”という設定はそういう行きすぎた生活臭を正当化させるための部品のような気さえする。いやたぶんそうだ。 それともうひとつ、今までもそういう傾向はあったが、本巻収録のエピソードは更にヒロインと外宇宙知的生命体との距離感が狭まっている。第一巻で登場した銀河刑事が完全に地球担当にされて居ついちゃってるし、病院に行けば陰謀に巻き込まれるし、隣に怪しげなSF理論を駆使した犯罪者は越してくるし、それどころかOGや同級生が宇宙人だったり。そういう異常な有様に完璧に順応しているヒロインが一番凄いのは確かだが。 果たしてこのシリーズはいったい何処に向かっているのか、という不安と期待とを等しく煽る、翻って安定感のある一冊でありました。読みながら緊張感というものをいっさい齎さないのが素敵です。 |
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