『稲川淳二の恐怖がたり 〜蠢く〜 ライブ全集(5)’01〜’02』
判型:文庫判 レーベル:竹書房文庫 版元:竹書房 発行:2005年8月11日 isbn:4812423090 本体価格:648円 |
|
毎年夏の恒例となっている『稲川淳二の怪談ナイト』。その舞台上で披露された怪談のなかから選りすぐりのものを文章に起こし一冊に纏めたライブ全集シリーズ、二年振りとなる第五巻。著者自身が稽古場で見たモノ、廃校舎に潜んでいた存在、社屋二階の倉庫が忌避されていた理由……ほか、シリーズ旧刊の全員プレゼントとして製作されたCDに収録したエピソードを含む全三十一話を収録する。
毎年この時期になると複数の怪談本を発表する稲川淳二氏だが、量産しているせいもあるのだろう、正直なところ本当に良質な怪談というのは一冊に二本か三本あればいいほうだ。また、文章とは言いながら語りをそのまま起こしている印象のものが多いので、書籍として読むとあっさりし過ぎていて物足りない。 その点、まずライブにかけるという意図のもとに厳選され、推敲された作品ばかりが集まっているこのシリーズは、かなり平均点が高くなっており、著者の類書よりも読み応えがある。他の著書で発表済のエピソードも多く収録されているため、出来云々はさておき毎回チェックしているような私にとってはややコスト・パフォーマンスが悪いのだが、あまり頻繁に買わないような人には寧ろいちばん適したシリーズと言えるだろう。 ただ問題なのは、身振り手振りも交えるライブの場で発表した話を単純に文章起こししているために、「こっち」とか「ここ」とか「あちら」とかいった曖昧な指示代名詞を使用しており、具体的な位置関係が把握出来ずに困惑するエピソードが幾つか認められることだ。語りの勢いを殺したくなかったのかも知れないが、必要に応じて演者がどこを指し示しているのか、具体的な位置関係はどうなっているのか、という説明は付して欲しい。 如何せん擬音が多く、潤色しすぎではないか? と感じられる箇所も多いので、文芸としての怪談を期待する人にはまったくお薦め出来ないが、稲川淳二氏の語りに親しんでいる人には、他の著書数冊を買うよりずっとお得な一冊だと思う。 私のお気に入りは、社屋二階の倉庫にまつわる話。二段構えの結末が実に厭だ。 |
コメント