『稲川淳二の怖すぎる話 よそから来た男』
判型:文庫判 レーベル:竹書房文庫 版元:竹書房 発行:2005年6月4日 isbn:4812421500 本体価格:552円 |
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毎年夏のお楽しみ、稲川淳二氏の怪談語り。本書は全国各地を巡る“怪談ナイト”イベントと共に出版される、“語り下ろし”による怪談本の2005年度第一弾である。地方の小村に身ひとつでやって来て、寺に婿入りした男を巡る陰惨な出来事を描いた『よそから来た男』、イベントのために借りた長屋で遭遇する怪異を綴る『二軒長屋』、研究のために購入した古本に起きる奇妙な出来事『古本』ほか、怪奇現象ではないがちょっと不気味な印象を残すコラム三本を含む全二十五篇を収録する。
毎回なにかしら腐しながらも、そもそも自分が怪談好きになるきっかけとなった原因にあたるということもあって新刊が出るたびに購入してしまう稲川淳二氏の、本年度最初の怪談本である。 いい加減慣れっこになっているので、別段出来にはさほど期待せずに読んでいるのだが、今回はなかなか粒が揃っている印象を受けた。突出して異様な出来事、怪談としての結構に新機軸を打ち出すようなエピソードというものはないのだが、文法をなぞりながらも整った出来のものが多い。 そう感じる理由のひとつとして、あまり因果について多くを語っていないことが挙げられるように思う。一般的な怪談話では、怪異を語ったあとで、実はこの土地やこの人物にはかつてこれこれこんな災厄や悲劇があって、といった説明を長々と付すことが通例のようになっている。因縁を語ることで演出され倍加される恐怖も確かにあるのだが、その辺でよく聞くような悲劇を背景として説明されたところで、たいていの場合は興醒めを誘うにすぎない。この点を勘違いしている自称怪談語りはけっこう沢山いるようで、テレビなどで怪談特集を目にすると失望することの方が頻繁なのはだいたいこの辺に起因している。 稲川淳二氏も話の末尾に因縁を付け加えることが多いのだが、本書においては過剰に説明することをしていないので、わりあい効果的に働いている。それ故に、類型的な話が大半ながらも標準の質を保っていると感じるようだ。 相変わらず、口頭で語ったものから起こしているらしい文章は擬音や“――”が多く鼻につくし、意味不明の章立てや個人の体験談に擬しただけの都市伝説と思しき話も無批判に収録してしまう姿勢には疑問を抱くが、オーソドックスな怪談本として楽しめるレベルは守っている。怪談語りとしての長いキャリアならではの視点を感じさせる三本のコラムも、シンプルだがなかなか興味深い。 |
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