背筋『口に関するアンケート』

　ネットで発表した『近畿地方のある場所について』が話題を呼んだホラー新世代の才能が2024年、KADOKAWAでの最新作『穢れた聖地巡礼について』とほぼ同時に刊行したホラー作品。
　あえて粗筋は記さない。何せ、文庫判よりさらに小さなサイズに27字×12行のやや大きめの文字、そしてわずか64ページと、短篇小説くらいの尺しかない。造本故に少々ページはめくりづらいが、読み始めればあっという間なので、予備知識は最小限のまっさらに近い状態で楽しむことをお薦めする。
　話題となった『近畿地方～』と同様、フェイク・ドキュメンタリーの性質を帯びたホラー作品であることは同様だ。語られていることも興味深いが、読み進むほどに、どういうシチュエーションで語られているのか、も気になってくる。枠の外にあるものごとを想像させ、単純な語りでは表現しきれない恐怖を作り出す試みが面白い。
　しかも、書籍ならではの工夫も凝らしてある。或いは、この発想を読者に届きやすいかたちで実現するために、この風変わりな造本を選択したのでは、とも勘ぐりたくなるほどだ。十二分な効果を上げているか、は人によって評価が分かれるところだろうが、個人的にはこれを形にした心意気だけでも評価したい。
　そして巻末にはさらにもうひとつ仕掛けがある。ここがあることで、読者もまた作品世界に少し巻き込まれてしまうのである。出来れば、ここの趣向をさらに突き詰めた向こう側があればより唸らされるところだが、本書だけでも、“異質な出来事に触れる”薄気味悪さ、恐怖を堪能出来る。
　案外、この書き手のスタイルとセンスに手軽に接することのできる、格好の入門書になるかも知れない……特殊な判型ゆえ、あまり増産されない可能性もあるし、小さすぎて文字通りに“埋もれてしまう”危険もありそうだが。