折原一『異人たちの館』

折原一『異人たちの館』(Amazon.co.jp商品ページにリンク) 『異人たちの館』
折原一
判型:文庫判
レーベル:文春文庫
版元:文藝春秋社
発行:2016年11月20日
isbn:9784167907327
価格:1320円
商品ページ:[amazon楽天BOOK☆WALKER(電子書籍)]
2024年12月11日読了

 作家を志し、幾つかの賞を得たが、作家としては生活が成り立たない島崎潤一は、資産家の小松原妙子という女性から、風変わりな原稿を依頼される。失踪した彼女の息子、淳の経歴を調べ、伝記として纏めて欲しい、と言うのだ。多額の報酬につられて引き受けた島崎だが、調べていくうちに淳の癖の強い人物像と、しばしば浮かび上がる奇妙な謎に魅せられていく――
 1993年に発表された、著者としては初期に含まれる長篇である。早いうちから、“叙述トリック”の名手という評判が先に立っていた感がある著者にとって、自ら認める代表作であり、転機ともなった作品だという。
 確かに本篇は、“叙述トリック”と呼ばれる趣向も含まれているが、しかしそんな言葉ひとつでは語りきれない仕掛けが幾つも仕込まれている。解説では“多重文体”という言葉を用いている、手記や小説、談話といった複数のスタイルを混在させる書き方は、フィクションでありながらどこかドキュメンタリーめいた魅力を醸し出す。主人公の島崎潤一とともに潜り込んでいく、小松原淳という人物の人間像と、小松原淳が長い時間を過ごした白山の邸宅のイメージとも相俟って、昨今メディアを超えて幅広く支持されるようになったホラー・モキュメンタリーにも似た手触りだ。
 小松原淳の人生にも不意に現れる、現実離れした美少女・ユキが島崎にも絡んでくることで産まれる感情的な昂りとともに、島崎自身がうっすらと感じていた脅威が現実になると、物語は急速に緊張を帯びてくる。頑なに平静を保とうとするかのように、談話や年譜は挿入され続けるが、そこから新たな事実や謎が浮かび上がり、物語は加速していく。今回私は電子書籍にて、ものすご~くのんびりと読んでいたはずなのだが、半分を超えたあたりからは止められなくなって、一気に読み切ってしまった。
 ごく大雑把に括れば、著者が評価された“叙述トリック”のカテゴリに属する作品ではある。ただ、その一言では語り尽くせない仕掛けと魅力が本篇には籠められている。先行作でもしばしば登場する、“世間から認められない作家”というモチーフに、歪な家族関係、生々しい欲望といった要素までが、作品の仕掛けそのものとともに読者を搦めとる。確かに、折原一という作家のソコまでのキャリアを総括するものであり、だったことは間違いないと思う。
 問題は、結構なボリュームなので、まずその厚みに気圧されることと、語り手も探求される人物も癖があるので、人によっては抵抗を覚える可能性があるところだろうか。ただ、ひとまず辛抱して、とりあえず半分まで、とページを繰っていただきたい――そのあとは、たぶん私と同じ穴の狢である。時間作っておいてね。


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