TOHOシネマズ西新井が入っているアリオ西新井、駐輪場脇に掲示された『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』ポスター。
原題:“Bill & Ted Face the Music” / 監督:ディーン・パリソット / 脚本:クリス・マシスン、エド・ソロモン / 製作:スコット・クループ、アレックス・レボヴィッチ、スティーヴ・ポンス、エド・ソロモン、アレックス・ウィンター / 製作総指揮:レイ・ボードロー、コートニー・チェン、パトリック・W・デュガン、スコット・フィッシャー、ブルース・ガルニエ、グランド・ガスリー、クリスチャン・マーキュリ、ジョン・ライアン・Jr.、ウィリアム・サドラー、スティーヴン・ソダーバーグ / 撮影監督:シェリー・ジョンソン / プロダクション・デザイナー:メラニー・ジョーンズ / 編集:ドン・ジマーマン / 衣装:ジェニファー・スタージク / キャスティング:ニコール・アベレラ、ジャンヌ・マッカーシー、レスリー・ウー / 音楽:マーク・アイシャム / 出演:キアヌ・リーヴス、アレックス・ウィンター、クリステン・シャール、サマラ・ウィーヴィング、ブリジット・ランディ=ペイン、ウィリアム・サドラー、アンソニー・キャリガン、エリン・ハイズ、ジェイマ・メイズ、ホランド・テイラー、ジリアン・ベル、キッド・カディ / メニー・リヴァース&ハンマーストーン製作 / 配給:PHANTOM FILM
2020年アメリカ、バハマ合作 / 上映時間:1時間31分 / 日本語字幕:林完治
2020年12月18日日本公開
公式サイト : https://www.phantom-film.com/billandted/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2020/12/22)
[粗筋]
伝説のバンド《ワイルド・スタリオンズ》として活動するビル(アレックス・ウィンター)とテッド(キアヌ・リーヴス)はかつて時空を超える旅のなかで「いずれ世界を音楽で救う」と言われていた。当人たちもそれを信じて音楽を続けているが、しかしその意気込みと裏腹に、世間はどんどん冷めていった。気づけば音楽性は迷走、すっかり誰にも理解出来ない領域に達してしまう。
テッドの弟ディーコンと、かつてテッドの義母でもあったミッシーとの結婚式で、満を持して演奏した新曲も不発に終わり、テッドは警察官の父から「現実を見ろ」と叱られてしまう。とうとうテッドは、お宝のレス・ポールを売り払う話まで始めてしまった。
そんな矢先に、かつて彼らを時空の旅へと導いた男ルーファスの娘・コリー(クリステン・シャール)が未来からふたりを訪ねてきた。いくら待っても世界を救う音楽に辿り着かないふたりに業を煮やした偉大なリーダー(ホランド・テイラー)が、遂に期限の到来を告げたのである。それも、ビルとテッドがこの話を聞いてから77分25秒以内で完成させないと、すべての時空のバランスが崩壊する、という。
さすがに焦ったビルとテッドは、時空を移動する電話ボックスで未来に赴き、既に完成しているはずの曲を未来の自分から譲ってもらうことを思いついた。2年もすれば完成している、と思いきや、そこでふたりが目撃したのは、予期していなかった自分たちの姿だった。
一方、偉大なリーダーらのいる2720年の世界では、「音楽の完成を待つよりも、時空に影響を及ぼすビルとテッドを始末したほうがいいのでは?」と考え、刺客のロボット(アンソニー・キャリガン)を放っていた。ケリーからそのことを教えられたビルの娘ビリー(ブリジット・ランディ=ペイン)とテッドの娘ティア(サマラ・ウィーヴィング)も行動を始める。曲の完成を待つよりも先に、理想のバンドを結成しようと考えたのだ。
様々な人間の思惑が時空を超えて入り乱れ、バランスはどんどん乱れていく。果たしてビルとテッドは、世界を救う音楽を作り出すことが出来るのか――?
[感想]
シリーズ3作目、だが、前作から29年も空いている。実はだいぶ前から続篇の計画はあって、それも10年越しくらいに実現されたと言うから、スタッフの愛着や執念がそこからも窺える。
しかし内容は、そんなに時間をかける必要あったのか? と首を傾げるくらいにおバカだ。タイトルロールであるビルとテッドがまずやたらと無思慮なのだが、周りもほぼほぼ思いつきで行動していて支離滅裂になっている。まともに辻褄をつけようとしたり、過剰に意味や意義を求めてしまうとは、こちらがバカを見る羽目になる。
だが恐らくはそれこそがこのシリーズの魅力なのだろう、というのは早く察しがつく。なにせこの主人公ふたり、良くも悪くもいい大人らしさが薄い。結婚もして、だいぶ大きな子供がおり、経済的な悩みにも直面しているが、思考の仕方が完全に子供だ。突然、目の前に時空を超えるひとびとが現れ、彼らの技術を用いた電話ボックス型のユニットで時間も空間も自在に超えてしまう彼らにまともな常識が身につかないのもある意味致し方ない、とも言えるが、いい歳をして異様なほどに呼吸のあった振る舞い、理屈や分別よりもその場のノリを優先する感覚など、その行動理念はある意味、高校生的なのである。前作から大幅に時間が経ち、主人公たちがすっかり大人になったから、と言って、彼らにゴテゴテとしがらみや分別をつけることなく、恐らくはそのまんま成長させてしまったあたりに、スタッフがこのシリーズの魅力や意義について確信を抱いていたことが窺える。その、本質的な“子供っぽさ”こそ、このシリーズの魅力であり、貫きたかった1点なのだろう。
この“子供っぽさ”は他の登場人物や筋立てにも顕著に表れている。700年後の世界のひとびとも、分別があるように見えて、安易にビルとテッドを始末して決着しようとするのはさすがに思慮が乏しいし、そのために採用したロボットがやたらと間抜けで、暗殺用のくせに罪悪感がある、というのが滑稽だ。本篇において父親たちより目覚ましく活躍する娘ふたりも、発想は幼稚で大胆すぎる。そして、こうした登場人物たちが思いつきのままに動き回るから、物語もまたおもちゃ箱をひっくり返したかのように混沌としてくる。物語に整合性や緻密さを求めるひとに取っては実に居心地の悪い作品なのだが、しかしこういう部分を魅力と捉えられれば、ただただ楽しい。
本篇の無茶苦茶さの最たるものは、ビリーとティアという娘コンビが召集する《ドリームバンド》の面々だろう。各時代の優れたミュージシャンを集めれば、最高のバンドが生まれる――という発想は解るが、そこで白羽の矢を立てるひとびとがあまりにも畑違いすぎる。むろん各々の才能は疑うべくもないが、果たして彼らを一堂に会したところですぐにまとまるものか。というか、そもそも“タイムトラベル”という概念が生まれていない時代のひとには、それを理解させるだけでも相当な時間を要するはずだ。
だがこの作品はそこを、「いーじゃん!」というノリだけで押し切ってしまう。理屈も何もなく、ひたすら面白いほうに転がっていく。どんどん邪魔が入ったり、全員うっかり地獄に飛ばされてしまったり(!)、想定外のトラブルも多発して、ますます事態は混乱に陥っていくが、それをさながら雪だるまのようにくっつけ、膨らませた挙句に繰り出すクライマックスは、まったくの予定調和でしかないのに爽快だ。
時空の歪み、という名目で突然現れる歴史的人物や有名なワンシーン、そして主演ふたりが特殊メイクを駆使して演じる、ビルとテッドの意外な未来像等々、遊び心が豊かで最後まで退屈させない。そこに理屈などないけれど、観客を愉しませる、という1点については揺らぎがない。
だが何より、ハチャメチャではあるけれど、大勢が時代や主義主張の違いを超えて力を合わせることの尊さ、それを実現してくれるかも知れない“音楽”というものへの想いが本篇には色濃く描かれている。その考え方も楽天的で幼稚ではあるけれど、それを素直に描ききってしまうからこそ、本篇は快いのだ。
観ているあいだ、「馬鹿だなあ」と呆れ加減で笑わされつつ、最後には幸せな充足感を味わえる。とてもとても傑作とは言いようのない作品ではあるけれど、愛すべき作品であることは間違いない。
関連作品:
『RED/レッド リターンズ』/『グランド・イリュージョン』
『地球が静止する日』/『マチェーテ・キルズ』/『父親たちの星条旗』/『ザ・マスター』
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』/『プリデスティネーション』/『ドロステのはてで僕ら』/『30年後の同窓会』/『L change the WorLd』/『イエスタデイ』
コメント
[…] スケジュールの都合により、年内、映画鑑賞に行けるのは今日まで。 […]