通い始めて既に四半世紀以上。

 長年、行きつけの蕎麦屋があります。
 私が高校生だった頃、ドライブ好きだった父の車でぶらぶらと流していたとき、昼食のために何気なく立ち寄ったのが始まりでした。田舎蕎麦風の武骨な切り口の蕎麦の歯応えと濃厚なかえしの味があまりにも美味しく、すっかりハマってしまって、近くに行くときは必ず立ち寄る店になった。のちに、バイクで出かけるようになった私は個人的にも頻繁に立ち寄り、年末には年越し蕎麦を買いに行くのも習慣になりました。
 しかしその数年後、店主が亡くなり、しばらく閉めていたのですが、蕎麦を打つ人が見つかったことで、営業を再開した。亡くなったご主人の打つ太めで粗い切り口の蕎麦と異なり、綺麗な細麺に変わりましたが、それでもかえしの味は受け継いでいる。以来、女将さんと娘さん家族がこの体制で店を守り続けていた。
 近年、私の父が亡くなって以降は、ちょうど墓参りの帰りに寄り道しやすい場所にあったこともあって、母と共に月1回、立ち寄るのが恒例になっていた。本当なら先月も訪問するはずでしたが、直前に母が怪我をして、車の運転をしづらい状態になり、お墓参り自体を中止したので、きのうは2ヶ月ぶりのお墓参り、そしてこのお店にも2ヶ月ぶりの訪問となりました。
 気になっていたのは、前回の訪問予定の少し前、母が友人とともにこの蕎麦屋を訪ねたところ、シャッターが閉まっていたこと。車から遠目で貼り紙が出ているのを見ただけなので、理由は不明でした。なにせ、女将さんは80歳、娘さんの家族がいるとはいえ、後継者が決まっている様子はなく、急に閉めてしまう可能性は皆無ではない、という心配はある。
 それゆえに昨日は、お墓参りを済ませたあと、移動中に電話をかけて、店が開いているか確認してから訪れることにした。女将さんが電話に出て、ちゃんと開いている、ということなので、安心して赴いたのです。
 ただ、何事もなかったわけではなかった。
 いつも手伝っていた、女将さんの娘さんの方が亡くなったそうなのです。
 まさに、母が友人とともに訪ねたちょっとあとに亡くなったらしい。女将さんは娘さんに、店を閉めるか、と提案もしたという。しかし、仕事をしないと却って調子を崩すかもしれない、と諭され、ほどなく営業を再開した、とのこと。
 正直、ショックは大きい。そもそも開業した店主が亡くなった前後の経緯を知っているくらい前々から通ってますし、女将さんの年齢を承知しているので、そのうち閉店しても仕方ないだろうな、とは思っていた。しかし、娘さんのほうが先に亡くなるとは思ってませんでした。

 このブログでも最初の頃からしばしば触れながらも、決して店名は出していないお店です。あまりにも美味しいのと、提供できる数が限られているので、これ以上多忙になって欲しくなかったのです。そのため、仲のいい人以外に教えたことはない。
 娘さんの死を知ってしまったことで、ますます人に教えられない店になってしまいました。本当に手が足りないときは同居している家族がヘルプに来てくれるそうですが、あくまで調理も配膳も女将さんひとり。提供する数は絞る、と仰言っていますが、それでも人が詰めかけたらパンクしてしまう。
 しかし、女将さんが営業を続ける気持ちを固めたのなら、私自身は通い続けるのみです。このところ、墓参りのついでに月イチで訪ねるのが恒例となっていたため、私ひとりで食べに行くことはなかったのですが、今後はまた、ひとりでもちょくちょく足を向けようと思います。

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