TOHOシネマズ日本橋、エレベーター向かいの壁に掲示された『イージー★ライダー』上映当時の『午前十時の映画祭11』案内ポスター。
原題:“Easy Rider” / 監督:デニス・ホッパー / 脚本:ピーター・フォンダ、デニス・ホッパー、テリー・サウザン / 製作:ピーター・フォンダ、ボブ・ラフェルソン / 製作総指揮:バート・シュナイダー / 撮影監督:ラズロ・コヴァックス、ベアード・ブライアント / プロダクション・デザイナー:ポール・ルイス / 編集:ドン・カンバーン / 出演:ピーター・フォンダ、デニス・ホッパー、ジャック・ニコルソン、アントニオ・メンドーサ、フィル・スペクター、マック・マシューリアン、ウォーレン・フィナーティ、ティタ・コロラド / パンド・カンパニー製作 / 初公開時配給:コロンビア映画 / 映像ソフト最新盤発売元:Sony Pictures Entertainment
1969年アメリカ作品 / 上映時間:1時間35分 / 日本語字幕:太田国夫 / R15+
1970年1月24日日本公開
午前十時の映画祭11(2021/04/02~2022/03/31開催)上映作品
2020年1月10日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video|Blu-ray Disc]
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/watch/467895
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2021/06/22)
[粗筋]
キャプテン・アメリカ(ピーター・フォンダ)とビリー(デニス・ホッパー)は、マリファナの取引で得た大金を大型バイクのタンクに潜め、アメリカ大陸横断の旅に出た。
ルイジアナ州ニューオーリンズで開催される謝肉祭を目指しながらも、道程を定めないふたりは、随所で寄り道をする。タイヤがパンクすると、道中でカトリック信者である農夫を頼り、そのまま昼食に招かれたり、ヒッチハイクをしてきたヒッピーの青年が仲間たちと暮らすコミュニティで過ごしたり、と気ままなときを満喫する。
道中、パレードに遭遇したふたりはオートバイのまま列に加わり、それをデモ行為として逮捕され、留置所に入れられてしまう。同じとき、酒に弱く幾度も警察のお世話になっている弁護士ジョージ・ハンセン(ジャック・ニコルソン)も留置所に寝ており、意気投合したふたりはハンセンの口利きでどうにか釈放された。
謝肉災に興味を示したハンセンを乗せ、ふたりは旅を再開する。しかし、旅路は次第に、彼らにとって過酷なものになっていった……。
[感想]
低予算で製作されながらも全世界的に支持を集め、“アメリカン・ニューシネマ”と呼ばれる潮流の代表作となった1本である。
観ていなかった者が本篇に抱くイメージは何よりも、軽快かつパワフルなステッペン・ウルフの“Born to be Wild”をバックに、アメリカの勇壮な大地を走るハーレーダビッドソンだろう。サングラスをかけた厳つい風体の男たちが、大型バイクに悠然と跨がり疾走するさまに、強い憧れを抱くひとが少なくなかったのも頷ける。
だが、そういうイメージのみで本篇を鑑賞すると、序盤は意外なほど波が泣く、淡々と彼らの見聞きした出来事が綴られていくさまに拍子抜けする。個性的な風貌ゆえに、突飛な言動、派手な騒動を起こすことを期待してしまうが、本当に本篇中ほどまで、大きな事件は起こらない。
むしろ、序盤における通称キャプテン・アメリカとビリーの言動は、常識的でさえある。確かに冒頭で、マリファナの取引という犯罪に手を染め大金を得ているが、それ以外に彼らは大きな罪を犯していない。あてもなく放浪する自分たちと異なり、その地に根を下ろした農夫の暮らしぶりを賞賛し、ヒッピーたちのコミュニティでは、客観的には自分たちと同じ部類に捉えられるコミュニティのひとびとと相容れぬものを感じながら、そこで無為な衝突をすることなく、平穏に立ち去っている。タンクの中に大金を隠しているため、無用な争いを避けたい、という意識もあるのだろうが、そのために示す配慮はしごく真っ当なのだ。
本篇を観ていて衝撃を受けるのは、旅をするほどにに如実になっていく、各地のひとびとから浴びせられる排他的な眼差しだ。序盤でも、彼らの風体を見ただけでモーテルの男が“空室あり”だった表示を“満室”に切り替える、というひと幕があるが、物語中盤以降になると、扱いは更に過酷さを増していく。ここで旅に加わるハンセンとの出会いのきっかけであるパレードの件はまだいいほうで、終盤での出来事など、明らかにキャプテン・アメリカたちに日はないのに、その土地の人間があからさまな犯罪行為で彼らを排除しようとする。序盤の、風変わりではあるが決して悪人ではない主人公たちの振る舞いを見届けている観客の眼には、住民達のほうがよっぽど悪党に映る。
こうした経緯には、未だ各地に根強い人種差別と同じ根があるように思われる。そもそも共同体は未知のものに対する恐怖や警戒心から、外部から訪れたものを忌避する傾向に陥りやすい。起こりやすい反応ではあるが、そこから差別感情、更に行き過ぎた懲罰意識にも陥って仕舞いかねない。まさにそういう構造が、本篇の主人公たちを破滅に導いていく。
成り行き任せの旅の虚しさを描いている、とも取れるが、私には本篇は、人間が極めて安易に他者――“遺物”と言ってもいいだろう――を差別し、間違った正義感から排除する愚を犯すことを、この時代の“遺物”であったヒッピーの眼差しで描いた作品、と映った。もはや“ヒッピー”など名乗るひとも、そういうレッテルを貼る状況も減ったが、シチュエーションは違えど、似たような醜悪な出来事はなおも繰り返されている。
主人公たちのクールないでたちや振る舞い、道中の美しい光景もまた魅力的だが、本篇をいまも傑作たらしめているのは、そうしたメッセージの普遍性故だろう。如何せん、それでも古臭さは拭えず、波の乏しい展開は眠気を誘いやすいが、それで本篇の価値が下がることはあるまい。
ひとつの特徴的な文化を極めて印象的に織り込み、時代を切り取りながらも、その芯には力強いメッセージが籠められている。間違いなく、本篇はいまも、そしてこれからも時代を代表する傑作のひとつであり続けるはずだ。
関連作品:
『キャノンボール』/『3時10分、決断のとき』/『奴らを高く吊るせ!』/『エレジー』/『チャイナタウン』/『最高の人生の見つけ方(2007)』
『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』/『卒業(1967)』/『真夜中のカーボーイ』/『タクシードライバー』/『グリーンブック』/『ノマドランド』
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