『ザ・スイッチ』

TOHOシネマズ上野、スクリーン8入口脇に掲示された『ザ・スイッチ』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン8入口脇に掲示された『ザ・スイッチ』チラシ。

原題:“Freaky” / 監督:クリストファー・ランドン / 脚本:クリストファー・ランドン、マイケル・ケネディ / 製作:ジェイソン・ブラム / 製作総指揮:クーパー・サミュエルソン、ジャネット・ヴォルトゥルノ / 撮影監督:ローリー・ローズ / プロダクション・デザイナー:ヒラリー・アンドゥハル / 編集:ベン・ボードゥイン / 衣装:ホイットニー・アン・アダムズ / キャスティング:サラ・ドマイアー・リンドン、テリ・テイラー / 音楽:ベアー・マクレアリー / 出演:ヴィンス・ヴォーン、キャスリン・ニュートン、セレスト・オコナー、ミーシャ・オシェロヴィッチ、ユリア・シェルトン、ダニ・ドローリィ、ケイティ・フィナーラン、エミリー・ホルダー / ブラムハウス製作 / 配給:東宝東和
2021年アメリカ作品 / 上映時間:1時間42分 / 日本語字幕:種市譲二 / R15+
2021年4月9日日本公開
公式サイト : https://theswitch-movie.jp/
TOHOシネマズ上野にて初見(2021/4/13)


[粗筋]
 90年代に大勢を殺害した連続殺人鬼ブッチャー(ヴィンス・ヴォーン)が、30年の時を経て突如、活動を再開した。11月11日水曜日の夜、友人宅で騒いでいた高校生たち4人を殺害したあと、ブッチャーはふたたび闇に消える。
 被害者たちと同じ高校に通うミリー(キャスリン・ニュートン)の気分が重いのは、しかし殺人鬼のせいではなかった。日頃から地味な性格をからかわれてばかりのミリーは、13日に控えている文化祭が憂鬱でならない。1年前に夫を喪って以来酒浸りの母コーラル(ケイティ・フィナーラン)、ミリーの消極性に厳しい警察官の姉シャーリーン(ダナ・ドローリィ)との反りも悪く、親友のナイラ(セレスト・オコナー)やジョシュ(ミーシャ・オシェロヴィッチ)と過ごしているときだけが安らぎだった。
 周辺地域に連続殺人犯の逃亡が警告されるなか催されたアメフトの試合を着ぐるみで応援したミリーは、母の迎えを待っているうちに、気づけばひとりきりになっていた。不安に戦く彼女の前に、ブッチャーは現れた。逃げ惑うミリーを執拗に追ったブッチャーは、遂に彼女の左肩にナイフを突き立てた。
 幸い急所は外れ、駆けつけた姉たちにミリーは救出される。しかし翌る朝、思わぬ異変が彼女を襲った。
 目覚めたときミリーは、不気味なオブジェが無数に飾られた部屋にいた。鏡を覗き込んだミリーは驚愕する――そこに映っているのは、殺人鬼ブッチャーの姿だった。
 どういうわけか、ミリーと殺人鬼の魂が、入れ替わってしまったのである――


[感想]
 女子高生と殺人鬼の意識が入れ替わる――というその着想がまず素晴らしい。
 このような人格入れ換えのテーマは昔からSf・ファンタジー系列の作品ではしばしば見られる趣向で、日本人にとってはまだ記憶も鮮明な『君の名は。』や往年の名作『転校生』といった傑作も多い。しかし、多くはコメディタッチで描くことが中心で、本篇のようにスラッシャーの文脈で活かした作品は恐らく稀有だろう。
 そして内容的にも、大前提である入れ替わりのお膳立てを整えたあとは、ひたすらにこのシチュエーションの面白さを引き出すことに腐心している。
 中身が冷酷な殺人鬼に変わったことで、かわいいけどちょっと地味だったミリーの装いはワイルドで魔女的な魅力を放つようになる。それまでは自己主張が弱く、親友を除いた同級生や教授からは侮られていたが、その鬱憤を晴らすかのように次々と彼らを手にかけていく様は、残虐だが痛快だ。
 一方、中身が気弱な女子高生に変わった殺人鬼は、その外見のごつさに似合わぬ愛嬌が滲み出てくる。いきなり30センチ近く身長が大きくなったので、目測を誤って枝に引っかかったり、性別までも入れ替わる映画のお約束である性器の違いに起因する困惑もしっかりコミカルに描き出す。
 しかし本篇が巧いのは、こうした描写や、そこから新たな展開に持ち込むための道具立てが周到である点だ。実際の撮影でも、ミリーの日常部分を準備することが始めたそうだが、そこでミリーの人柄や個性、友人たちとの関係性をしっかり描いているから、殺人鬼の猟奇的なやり口に怖さだけではない爽快感が生まれ、厳つい大男の女子高生仕草にも説得力が生まれる。中盤で、こういうタイプの作品では珍しい展開になるのだが、それもまた序盤の日常描写があってこそ成立している。『ハッピー・デス・デイ』2作もそうだったが、プロットの組み立てにそつがない。
 そして、ユーモアの匙加減が絶妙だ。こうしたホラーやスラッシャーに盛り込まれるユーモアはしばしば嘲笑的に陥ることがあるが、本篇は主要キャラクターに黒人、ゲイといったいわゆるマイノリティに属するひとびとを加え、それをネタにしながらイヤらしさがない。自分の立ち位置を受け入れているからこその立ち振る舞いには清々しささえ感じられる。こと、ゲイであることを堂々と公言し、中傷めいた言葉も軽く受け流して、ミリーのよき味方となるジョシュは、こういうキャラクターをフィクションに持ち込む上での理想型と言っていいかもしれない。
『ハッピー・デス・デイ』2作もそうだったが、本篇もまた物語の鍵に“家族”を組み込んでいる。序盤はミリーにとって悩みの種でしかなかった家族の存在が、最終的に様々なかたちで救いとなり報われていくのもまた爽快だ。やもすると、こういう筋書きはしばしばわざとらしくなりがちだが、本篇はその役割分担、位置づけも練られている。
   終盤のサプライズが、驚きと言うにはだいぶ軽いのが気になるところだが、あれも決着の爽快感をより強める効果を上げており、そこにも巧さを感じる。ベースとなる発想と、それを掘り下げる面白さを確信しているからこそ、過剰な仕掛けに依存しなかったのだろう。
 残虐なのに観ていて楽しく、それでいて後味は爽快。監督が『ハッピー・デス・デイ』シリーズで示したエンターテイナーとしての才覚が、決して偶然でないことを、本篇で見事に証明した。

 ちなみに、監督のクリストファー・ランドンは、本篇の世界観が『ハッピー・デス・デイ』シリーズと繋がっていることを公言している。
 まだ正式な発表はないようだが、どうやら『ハッピー・デス・デイ』は第3弾を製作する予定らしい。もし前述のコメントのとおりなら、本篇がこの第3弾に影響を及ぼす可能性もあるのかも知れない。
 3作続けてこれほどまでに愉しませてくれた監督であるから、この『ハッピー・デス・デイ3』にも期待せざるを得ない――実現してくれるといいなあ。


関連作品:
パラノーマル・アクティビティ4』/『パラノーマル・アクティビティ 呪いの印』/『ハッピー・デス・デイ』/『ハッピー・デス・デイ2U
イントゥ・ザ・ワイルド』/『レディ・バード』/『奥さまは魔女
エターナル・サンシャイン』/『ジェニファーズ・ボディ』/『転校生』/『転校生 さよなら あなた』/『君の名は。

コメント

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