『この動画は再生できません THE MOVIE』

シネマート新宿が入っているビル、1階通路部分のエレベーター向かいに掲示された『この動画は再生できません THE  MOVIE』ポスター。
シネマート新宿が入っているビル、1階通路部分のエレベーター向かいに掲示された『この動画は再生できません THE MOVIE』ポスター。

監督:谷口恒平 / 脚本:河口芳佳、谷口恒平 / 企画&プロデューサー:河口芳佳 / 製作:三木和史、加瀬林亮、遠藤幹彦 / 撮影:高橋正信 / 照明:太田博 / 装飾:山岸譲 / スタイリスト:後原利基 / ヘアメイク:板谷博美 / 編集:平野一樹 / 助監督:猪腰弘之 / 録音:百瀬賢一 / 音響効果:橋本正明 / 音楽:MOKU / 制作担当:石川真吾 / 出演:加賀翔(かが屋)、賀屋壮也(かが屋)、和田雅成、世古口凌、平野良、桃月なしこ、アキラ100%、福井夏、あべこうじ / 製作:ミツウロコ、ビデオプランニング、BBB、テレビ神奈川 / 宣伝:とこしえ / 制作&配給:ビデオプランニング
2024年日本作品 / 上映時間:1時間34分
2024年9月13日日本公開
公式サイト : https://www.tvk-yokohama.com/konodoga/
シネマート新宿にて初見(2024/9/14) ※公開記念舞台挨拶つき上映


[粗筋]
 フリーで映像編集を手がけている江尻真(加賀翔)は、その優れた洞察力と、映像技術への知識によって、謎めいた動画の秘密を探求しているうちに、結果として大きな事件に関わってしまい、一部で名の知られた存在になっていた。その流れで縁の出来たローカル局の報道記者であった梅田レイ(福井夏)は、この1件を契機に、自らのオカルト趣味を前面に打ち出したネットニュース《CROSS》を立ち上げ、かなりの成功を収めたが、その後も江尻の洞察力を当てにして、不可解な映像を時折持ち込んでくる。
 ホラーDVD『本当にあったガチ恐投稿映像』の監修を手がけていたが、訳あって現在、暇を持て余しているオカルトライターの鬼頭和弘(賀屋壮也)とともに、江尻は託されたDVDを確認することにした。
《冬の空》というタイトルの冠されたDVDに収録されていたのは、13分24秒という短篇映画。倒産した映画会社の倉庫から発見されたものらしい。主演する澤村透(和田雅成)は十数年前に謎の自殺を遂げており、不条理で不可解な内容とも相俟って、梅田の目を惹いたようだ。鬼頭の目には、一時期多く制作された、思わせぶりなだけの作品に映ったが、江尻は例によって、知識と洞察力で隠された秘密を紐解いていく。
 世直し系YouTuberの炎上した生配信映像、そしてお笑い芸人を中心としたオカルト中心の街ブラ番組。一連の動画に対する江尻と鬼頭の考察は、やがて思いもかけない真実を導き出していく――


[感想]
 最初は、テレビ神奈川の深夜帯に、1回30分、わずか4回だけ放映されたショートシリーズだった。だが、近年人気を博している、何らかの企みを封じ込めた考察系フィクションの人気もあって、ネット配信からその面白さが知れ渡り、1年後にシーズン2が開始、そしてその最終回で本篇が告知された。それだけ、シーズン1が面白く、続篇の待望論が出た、ということなのだろう。
 映像のなかに隠された秘密、伏線を読み解いていく類のフィクションは近年多くなってきたが、このシリーズが一線を画している点として、多くの仕掛けが映像製作の技術、専門知識に根ざしていることが挙げられる。
 主人公のコンビはもともと、いわゆる心霊ドキュメンタリー――私はこの名称が嫌いで“怪奇ドキュメンタリー”と呼んでいるが、いずれにせよ、視聴者から寄せられた、怪奇現象を記録した映像を紹介するオリジナルビデオシリーズを手がけていたスタッフである。実際には、本物の怪異を記録した映像など滅多になく、大半がフェイクなのだが、そうして自らフェイクを制作していたからこそ、映像に施された細工、不自然さに敏感だ。とりわけ編集担当の江尻は撮影技術に通暁したうえで洞察力にも優れ、もたらされた映像の秘密に、部屋に居ながらにして辿り着いてしまう。
 実はこの、きちんと解き明かす人間が限定されていることも、このシリーズのポイントである。編集室から出ることなく謎を解いていくさまは、ミステリのジャンルでは“安楽椅子探偵”というスタイルに属する。近年増えてきた、考察系の映像を探偵役が紐解き、隠されたドラマ、場合によっては犯罪も炙り出していく、という構成は、実は王道のミステリとも言えるのだ。映像の異様さ、不自然さが静かな恐怖をもたらす一方で、主に江尻が快刀乱麻を断つがごとく解明していくから、安心感がある。しかも、江尻と鬼頭の関係性は思いっきりホームズとワトソンのそれで、ここも安心感に繋がっている。
 安心感、という意味でもうひとつ重要なのは、このホームズとワトソンを演じているのが、お笑い芸人のかが屋であることだ。かが屋は若手芸人のなかでもネタの質のみでなく、演技力の高さで知られている。その実力は本篇でも発揮されており、ドラマ版第1話で、女子高生たちが廃墟に潜入し災厄に見舞われる不気味な映像の直後で、あっさりと彼らの空気感に引き込んでしまう。鬼頭の軽薄な物言いに、振り回されつつも釘を刺し、持ち込まれた難題に渋々ながらもきっちり応える江尻。コント仕込みの軽妙で、間を巧みに活かしたやり取りは、それだけでも観ていられるほどだ。
 本篇で検証される動画は、謎が解かれる前だと、その背景を知らずともどこか薄気味悪いものを感じさせるものばかりで、ホラーとしてもなかなかの仕上がりなのだが、謎解きのパートにこうしたコメディの要素を入れたことが、親しみやすさとともに、適度に怖さを和らげている。私が劇場で鑑賞した際の舞台挨拶で、主演の加賀翔が「ホラーは苦手だけど、これは観られる」と言い、周囲からも同様の感想を聞くことが多かったというが、それも本篇が指示された一因だろう。怖さもあるが、腑に落ちる解決と、そこに至る過程の雰囲気作りが巧みなので、ホラー映画としても考察系の作品としても間口が広い。
 初めての劇場版となる本篇は、シリーズと異なり1時間半をちょっと超える長篇の尺だが、こうしたテレビシリーズの魅力はきちんと引き継いでいる。テレビ版なら3話分になる尺に会わせて、劇中で検証する映像も3本。主人公である江尻と鬼頭がテレビシリーズでの編集室から、ちょっと稼ぎがよくなったらしい江尻の部屋に移ったが、やりとりの面白さも謎解きの味わいもそのままだ。
 そして、劇場版ならではの贅沢感もある。テレビシリーズ自体がかなりの低予算で制作されていたから、比較して豪華になっただけで、大作映画からすればまだ控えめなレベルだとは思うが、江尻の部屋もそうだし、撮影の規模も拡大している。正直、テレビシリーズにはどうしても漂っていた、「頑張って安く上げてるな~」という感覚が、劇場版では一掃された。
 何よりも、ちゃんと構成が長篇となっているのである。テレビシリーズも、各シーズンごとにちょっとした趣向はあるのだが、テレビシリーズのようにひとつの検証ごとに時間が空くわけではなく、どうしても毎回、切れ目が生じる。しかし長篇映画として制作するなら、検証する動画を適切な本数にしても、各々の出来事を途切れることなく繋げることが出来る。結果、本篇の終盤は“クライマックス”と呼ぶに相応しい盛り上がりとインパクトが生まれていて、満足度が高い。
 ただ、ミステリ好きとしては若干、首を傾げるところがあった、というのも指摘しておきたい。かなり重要な部分なので詳述は控えるが、過去の出来事があまり都合よく展開しているのである。とりわけ、ある事実については、別の形で発覚していないと不自然だ。
 とはいえ、このあたりはそうした現実的な考え方よりも、作品としての意外性、驚きを優先した、と解釈すれば、決してマイナスポイントではない。実際、物語のななではこの選択が有効に働いているし、ドラマとしての重みも作り出していることは確かだ。
 舞台挨拶での監督のコメントによれば、テンポを優先した結果、説明をせずに残した伏線や隠し要素も少なくないのだという。事実、そのことを承知の上で鑑賞しても、すべてを汲み取ることは出来なかった、と感じているし、恐らく二度、三度と鑑賞するごとに気づきがあるはずだ。そして、何度観てもくすぐられそうな、かが屋を中心とする笑いを含んだ芝居作りも、潔い割り切く割り切った作りと相俟って、繰り返し鑑賞したくなる仕上がりにしている。
 とある設定故に、テレビシリーズを万全に味わいたいなら発表順に鑑賞するのが必須、と言わざるを得ない。もちろん、この劇場版単品でも、きちんと物語は完結しているため、その魅力は味わえるが、テレビシリーズすべて合わせても4時間はかからないので、出来ればテレビシリーズを予習してから臨んでいただきたい。それだけの価値も楽しさもある、優秀なエンタテインメントである。


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