『ミッドナイト・スカイ』

『ミッドナイト・スカイ』予告篇映像より引用。
『ミッドナイト・スカイ』予告篇映像より引用。

原題:“The Midnight Sky” / 原作:リリー・ブルックス=ダルトン『世界の終わりの天文台』(東京創元社・刊) / 監督:ジョージ・クルーニー / 脚本:マーク・L・スミス / 製作:ジョージ・クルーニー、バード・ドロス、グラント・ヘスロヴ、キース・レドモン、クリフ・ロバーツ / 製作総指揮:グレッグ・バクスター、ジェニファー・ゲーツ、バーバラ・A・ホール、トッド・シュスター / 撮影監督:マーティン・ルーエ / プロダクション・デザイナー:ジム・ビゼル / 編集:スティーヴン・ミリオン / 衣装:ジェニー・イーガン / キャスティング:ルーシー・ランズ、レイチェル・テナー / 音楽:アレクサンドル・デスプラ / 出演:ジョージ・クルーニー、フェリシティ・ジョーンズ、デヴィッド・オイェロウォ、カオイリン・スプリンガル、カイル・チャンドラー、デミアン・ビチル、ティファニー・ブーン、ソフィー・ランドル、イーサン・ペック、ティム・ラス、ミリアム・ショア / スモークハウス/アノニマス・コンテント製作 / 配給:Netflix
2020年アメリカ作品 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:栗原とみ子
2020年12月11日全世界同時配信
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/watch/80244645
Netflixにて初見(2021/1/12)


[粗筋]
 2049年、地球は未曾有の大惨事に見舞われ、事実上、人類は滅亡した。
 北極圏にある天文台に勤務していたオーガスティン(ジョージ・クルーニー)は最後の撤退便に乗ることを拒む。血液の病気を抱えているオーガスティンは7日も輸血を経てば死んでもおかしくない状態だったが、それゆえに、最期の時間をここで過ごすつもりだった。
 それから3週間、病に苦しみながらも生き延びていたオーガスティンだが、世界中が次々に通信不能に陥り、着実に滅びが迫っていることを実感し続けている。しかし、通信可能な拠点を探していたとき、人類の移住先を求めて木星の衛星まで旅立っていた宇宙船アイテル号が、折しも帰還の途に就いていることを知る。
 既に地球は帰れる場所ではない。だが、アイテル号が調査した衛星に戻れば生存は可能であり、最期の望みを繋ぐことが出来る。オーガスティンは通信を試みたが、短いやり取りのあと、途絶えてしまう。そこでオーガスティンは、ヘイゼン湖にある測候所のパラボラアンテナを利用することにした。オーガスティンは、天文台に取り残されたアイリス(カオイリン・スプリンガル)を伴い、長い旅に出る。
 一方、探査船アイテル号のクルーたちも、地球との通信が一切途絶えたことに不審を覚えながら、航行を続けていた。だが、予定外の航路変更によりデブリと遭遇、通信機能に重大な損傷を被ってしまっていた。
 そのあいだにも、災害の影響は北極圏にまで及びつつある。オーガスティンは人類最後の希望にメッセージを届けることが出来るのか……?


[感想]
 本篇はほぼ絶望的なところから始まる。既に天文台に主人公オーガスティン以外の姿はなく、他の拠点との通信を試みても、すべて反応がない。だが唯一、人類移住計画のための調査に赴いていた宇宙船だけが生きていた。滅びとは関係なく、病のためにあと何日生き延びられるか定かではないオーガスティンが、宇宙船に危機を知らせるために北極圏を越えていく。SFであり、冒険ドラマでもある。
 ただ、状況が把握出来てしまうと、そこからあとの展開は概ね予想がつく。崩壊が始まっている北極圏を移動するオーガスティンと取り残された少女アイリスは当然のようにトラブルに遭遇するし、同時進行で描かれる探査船においても、この設定ならではのトラブルとドラマが繰り広げられる。終盤の展開にしても、恐らくはある程度SFに接したことのあるひとならば、ほとんど推測が出来るはずだ。
 だが、展開として予想はついても、その表現は堂に入っていて情緒に富んでいる。
 オーガスティンが天文台を離れ、通信可能な測候所に移動する決意をするまで、彼には会話する相手がアイリスしかおらず、あとは表情や行動のみで感情を仄めかすひとり芝居だ。しかしそれでも、オーガスティンの葛藤、ときおり挿入される怪僧からも察せられる心情が織り込まれ、味わい深い。
 探査船サイドの場面でも、本篇の演出はそつがない。ぶっちゃけ、こちらで起きるトラブルは、フィクション慣れした人間からすれば、わざわざ悲劇に向かってすり寄っているように映るほどあからさまなのだが、その転がし方、見せ方には工夫が豊かで、映画ならではの妙味に満ちている。とりわけ、悲劇のハイライトとなるひと幕は、こういう宇宙空間、そして宇宙船という環境だからこその制約と特性を、展開のうえでも映像的な表現においても活用していて、唸らされるほどだ。その映像があまりにも美しいからこそ、悲哀を掻き立てている点でも優れた見せ場になっている。
 美しさ、という点で言えば、こうした近未来の宇宙開発を題材とした映画としては、宇宙船のデザインがやや風変わりで個性的であることにも目が行く。基本的なデザインは実在する宇宙船や国際宇宙ステーションとも共通しているが、ステンドグラスの花びらのようなソーラーパネルを備えた外観は、従来のSFに登場する宇宙船よりイメージが柔らかい。内装にしても、よくある前面が計器や配線に覆われたものではなく、蜘蛛の巣にも似たデザインがちりばめられていたり、必要性のなさそうな段差が設けられていたりする。探査船の乗員達は片道2年ずつ、延々と船内で過ごすわけで、劇中でもそうしたストレスに対応するためと思われるゲームやVRノ記録動画ガ登場しており、優美で趣味的なデザインも、機能性と居住性を両立させようと試みた結果なのかも知れない。クラシックで定番の舞台装置、という印象ながら、近年の現実、フィクション双方の潮流を踏まえて発展させていることが窺える。
 終盤の展開にしても、本篇は一種の“様式美”に彩られている、と言える。ひとつだけ、驚きに繋げたかったのかも、と感じるモチーフがあるが、それにしたところで、SFや超現実的な要素を含むドラマでは定番と言えるもので、すれた者なら察しはつく。ただ、それを悟る場面のやり取りと終盤のヴィジュアルはやはり情感と、この世界観だからこその美しさに溢れている。
 表面だけ眺めれば安易に映るかも知れない。しかし本篇は、選択した題材やモチーフに誠実に向き合い、その美しさや情緒を繊細に汲み取っている。じっくりと味わって欲しい佳作である――そして、それゆえに、ネット配信のかたちで公開されたのがどうにも惜しまれる。ヴィジュアルにしても細やかな間を設けた演出にしても、これは大画面で堪能するに相応しい作品だったと思う。


関連作品:
コンフェッション』/『グッドナイト&グッドラック』/『かけひきは、恋のはじまり』/『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』/『サバービコン 仮面を被った街』/『マーターズ(2015)
ゼロ・グラビティ』/『アメイジング・スパイダーマン2』/『インターステラー』/『ファースト・マン』/『マチェーテ・キルズ
2001年宇宙の旅』/『ガタカ』/『ノウイング』/『地球、最後の男』/『オブリビオン』/『エリジウム』/『オデッセイ』/『アド・アストラ

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