原題:“警察故事4之簡單任務” / 英題:“First Strike” / 監督:スタンリー・トン / 脚本:スタンリー・トン、ニック・トラモンテン、エリオット・トン、グレッグ・メリオット / 製作:バービー・タン / 製作総指揮:レナード・ホー / 撮影監督:ジングル・マー / アクション監修:スタンリー・トン、ジャッキー・チェン / 音楽:ネイザン・ウォン / 主題歌:ジャッキー・チェン『英雄故事』 / 出演:ジャッキー・チェン、ジャクソン・ルー、アニー・ウー、トン・ピョウ、ユーリ・ペトロフ、ロッキー・ライ、アイレン・シト、ケネス・ロー、ウィリアム・ダン、チェン・ウェイタオ、グリシャ・エヴァ・ノナ / 初公開時配給:東宝東和 / 映像ソフト発売元:Warner Bros. Home Entertainment、デアゴスティーニ・ジャパン
1996年香港作品 / 上映時間:1時間47分(香港版) / 日本語字幕:?
1996年12月14日日本公開
2015年10月14日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon|ジャッキー・チェンDVDコレクション:amazon]
ジャッキー・チェンDVDコレクションにて初見(2015/1/3)
[粗筋]
香港国際警察のジャッキー(ジャッキー・チェン)は、スパイ容疑をかけられたナターシャ(グリシャ・エヴァ・ノナ)調査の功績がCIAに認められ、ツアーでウクライナに帰国するナターシャの監視を命じられる。
ジャッキーに任されたのは旅客機の機内のみ、到着後すぐに御役御免となるはずが、現地を観光していたときにナターシャが何故か連行される現場を目撃したジャッキーはすぐさま行方を追い始めた。
ナターシャが連れこまれたのは、どこかの教会だった。ジャッキーが身を隠すために潜入したバンに乗ったナターシャは銀行前で降車し、ジャッキーは同乗者の運転するまま、スキー場に辿り着く。何らかの鞄を持ってスキー場を走って行く男を、ジャッキーは薄着で追跡を継続した。
男が山小屋に入ったところでようやく追いついたウクライナ軍やCIAのマークが山小屋を包囲するが、あたりには男と取引していたらしい組織の伏兵が潜んでいた。ウクライナ軍の部隊が倒される中、なんとか逃げ出す男を、ジャッキーは更に追いかける。
途中、男が落とした鞄をいちどは回収したジャッキーだったが、氷結した湖でヘリコプターに襲われ、身を隠している隙に鞄を奪われてしまう。
気づいたときジャッキーはロシアの陸軍病院に担ぎ込まれていた。CIAから協力を要請されたKSFのイゴロフ大佐(ユーリ・ペトロフ)の話で、ようやくジャッキーは一連の出来事の背景を知る。
冷戦終結以降、核兵器削減条約により各国の保有核兵器は着実に数を減らしていたが、推進の遅れているウクライナにはいまだ多くの核弾頭が眠っている。その一部が密売されており、どうやらジャッキーはその取引を巡る駆け引きに巻き込まれていた。ジャッキーが途中から追っていたツイ(ジャクソン・ルー)はソ連から核開発の技術を盗んでおり、長年KSFのターゲットとなっていたのである。
ジャッキーはツイの行方を探るべく、イゴロフ大佐の調達した潜水艦に乗って、ツイの父親や妹のアニー(アニー・ルー)がいるオーストラリアへ赴くのだった――
[感想]
先行する『ポリス・ストーリー3』の時点で既にその傾向が窺えたが、この作品はいよいよ“007”じみている。各国を渡り歩き、諜報組織と接触しつつ密売事件を追う。劇中でもジャッキー自ら「007みたいだ」と語っているくらいで、意識しているのは明白だろう。
しかし話の展開は正統派のスパイ物とは異なり、どちらかといえば事情を知らない人物がいつの間にか陰謀に関与している、いわば“巻き込まれ型”の応用となっている。いちおう、事態に関わるきっかけとして、最初に自身が捜査した人物がスパイ容疑をかけられていることは知っているが、当初は彼女を影から監視するだけの簡単な任務であり、それが気づけばとんでもない陰謀に巻き込まれ、結果的に007めいた仕事をさせられる、という体裁を取っている。いずれにしても、原題に“警察故事”を掲げてきた先行3作と比べるとだいぶ趣が異なっている。
とはいえ内容的にはジャッキー映画らしく、工夫が豊富で難易度の高いアクションと、観る側をニヤリとさせるコミカルな要素がふんだんにちりばめられている。そもそも事態に巻き込まれる過程自体が、背景は深刻ながらコメディ的だし、薄着のまま雪原での追いつ追われつに巻き込まれるわ、次の瞬間には潜水艦でオーストラリアに運ばれVIP待遇を受けていたかと思うと、その晩には身ぐるみ剥がされ無一文になっていたりする。どうにか入手した防寒具がゴマちゃんの帽子だったり、身体検査を装って街中で全裸にされたり、細かく笑いを誘ってくる。
だがやはり特筆すべきは、アクション・シーンの数々だろう。雪原でのスノーモビルやスノーボードが入り乱れる追跡劇、オーストラリアの超豪華ホテルの外壁まで駆使した追いかけっこ、チャイナタウンで催される葬儀をハチャメチャにする大騒動、そして水族館の水槽と観覧スペースとの境界を取り払うド派手な趣向の数々。雪原でのアクションはさすがにどこかで死んでもおかしくないだろう、というシチュエーションだし、水族館でのやり取りはいくら敵が悪党といえども騒動が派手すぎてあり得ないレベルながら、見たことのない映像が矢継ぎ早に繰り出されてツッコむ隙を与えず魅せてしまう。
ジャッキーがアクションを“魅せる”ことに特化している、というのがいちばん如実に理解できるのは、クライマックスの水族館のシークエンスだろう。ここでは人食いザメが周遊する水槽を舞台にした格闘から、最後はとんでもない趣向で黒幕たちが逃亡を図るくだりが描かれるのだが、そもそも一般的な水族館で、本当に“人食いザメ”を飼育することはない。少なくとも、劇中で描かれているようにバクバク人を食べるサメなんて、危なっかしくて飼っていられないはずだ。何より、水中で蹴ったり殴ったりしたところで、水の抵抗が強いため、ろくに威力を発揮しない。殴られたところで吹っ飛ばされたり、悶絶するようなダメージを受けることはまず考えにくい。実際にアクションを撮っている当事者はそのことを充分に理解していたはずだ。それでも敢えて撮ったのは、水中だからこそ可能な趣向やアイディアがあったからこそだろう。実際に味わう痛みをごまかしたり、何十回と繰り返していちど成功すればいいような設計のアクションを採り入れるのと、考え方は一致している。
本篇が製作されたのは1996年、ちょうどこの2年前の『レッド・ブロンクス』が北米で初登場1位の快挙を遂げ、いよいよ“世界のジャッキー”に発展していた時期だ。そのアイディアも同じように、香港や日本などアジアの狭い地域には収まらなくなってきていた。本篇のあと、ジャッキーは本格的に彼流の“スパイ映画”を撮ることを志向し『WHO AM I ? フー・アム・アイ?』や『アクシデンタル・スパイ』を作っていくわけだが、本篇は“ポリス・ストーリー”シリーズの1篇である以上に、ジャッキーがその活躍を更に広げていく第一歩となった作品、と捉えるべきかも知れない。そう考えると、放題から“ポリス・ストーリー”を外し、一見無関係に見せかけたのも懸命と言える――少なくとも、よりリアル志向で一線を画す『新ポリス・ストーリー』や、SF的な設定を背景とする『ポリス・ストーリー/REBORN』をシリーズの1篇に数えるくらいなら、認められて然るべき配慮だと思う。
関連作品:
『ポリス・ストーリー/香港国際警察』/『ポリス・ストーリー2/九龍の眼』/『ポリス・ストーリー3』/『新ポリス・ストーリー』/『香港国際警察 NEW POLICE STORY』/『ポリス・ストーリー/レジェンド』
『レッド・ブロンクス』/『WHO AM I ? フー・アム・アイ?』/『アクシデンタル・スパイ』
『ミラクル/奇蹟』/『スペシャルID 特殊身分』
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