『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ(字幕・IMAX)』

TOHOシネマズ日比谷、スクリーン4入口前にて撮影した『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』パンフレット。
TOHOシネマズ日比谷、スクリーン4入口前にて撮影した『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』パンフレット。

原題:“Venom : Let There Be Carnage” / 監督:アンディ・サーキス / 脚本:ケリー・マーセル / 原案:トム・ハーディ、ケリー・マーセル / 製作:アヴィ・アラド、トム・ハーディ、ケリー・マーセル、ハッチ・パーカー、エイミー・パスカル、マットトルマック / 製作総指揮:ジョナサン・カヴェンディッシュ、ルーベン・フライシャー、バリー・H・ウォルドマン / 撮影監督:ロバート・リチャードソン / プロダクション・デザイナー:オリヴァー・スコール / 視覚効果スーパーヴァイザー:シーナ・デュガル / 視覚効果プロデューサー:バリー・ヘムスリー / 編集:メリーアン・ブランドン、スタン・サルファス / 衣装:ジョアンナ・イートウェル / キャスティング:ルーシー・ビーヴァン / 音楽:マルコ・ベルトラミ / 出演:トム・ハーディ、ウディ・ハレルソン、ミシェル・ウィリアムズ、ナオミ・ハリス、リード・スコット、スティーブン・グレアム、ペギー・ルー、シアン・ウェバー、ミシェル・グリニッジ、ロブ・ボーエン、ローレンス・スペルマン / 配給:Sony Pictures Entertainment
2021年アメリカ、イギリス、カナダ合作 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:アンゼたかし
2021年12月3日日本公開
公式サイト : https://www.venom-movie.jp/
TOHOシネマズ日比谷にて初見(2021/12/10)


[粗筋]
 異星から地球に運び込まれたスライム状の知的生命体シンビオートに寄生されたエディ・ブロック(トム・ハーディ)は、様々な事件を巻き起こし、或いは巻き込まれながらも、この狂暴な存在とひとまずは共生に成功していた。《ヴェノム》と名付けられた寄生体は、生き延びるためにしばしば人間を捕食したがるが、特に必要な成分が摂取可能なチョコと鳥の脳味噌、時として極悪人の頭を食わせることで、エディはどうにか宥めている。
 一方で、ヴェノムと遭遇する以前のトラブルが原因で、本業のジャーナリストとしては落ち目の状態が続いていた。そんな矢先、従前からの騒動でエディに疑いの目を向けるマリガン刑事(スティーブン・グレアム)から、サン・クエンティン刑務所に収容されている殺人鬼クレタス・キャサディ(ウディ・ハレルソン)のインタビューを要請される。市民の声を受け、クレタスは未だ犯行の全容を証言しておらず、多くの犠牲者の屍体が発見されていない。何故かクレタスに気に入られ、先方から取材を要請されたことのあるエディに、手懸かりを探り出すように、マリガンは求めたのだ。クレタスに苦手意識のあるエディは躊躇するが、ヴェノムは再起のチャンスだ、とエディを鼓舞する。
 果たしてクレタスは、口頭では謎めいた詩文をエディにもたらしただけだったが、そのアメーバ状の肉体に完璧な記憶能力を備えたヴェノムは、わずかに垣間見たクレタスの独居房の壁に記された落書きから、被害者たちの遺体を隠した場所を特定し、マリガン刑事を出し抜く格好で暴いてしまった。
 こうしてエディは一躍、花形記者に返り咲く。浮かれるエディに対し、しかしヴェノムは、すっかり空腹に喘いでいた。チョコも脳味噌も欠乏しているヴェノムは人間を捕食したがっているが、エディが「食ってもいい」と許すような極悪人はそんなに多くない。苛立ち、夜の街を駆けずり回っているところへ、エディの元恋人アン・ウェイング(ミシェル・ウィリアムズ)から電話がかかってきた。
 アンがすっかりお気に入りのヴェノムはこの好機に、とエディに復縁するよう勧めるが、アンの用件は、現在の恋人である医師ダン・ルイス(リード・スコット)との婚約の報告だった。エディもヴェノムも未練たらたらだったが、渋々引き下がる。
 その頃、犯行がすべて立証されたことに伴い、遂にクレタスの処刑が決定していた。クレタスはエディに怨念で満ちた招待状に応じ、処刑間近のクレタスとの面会に赴く。だが、心の傷を抉るようなクレタスの挑発に、激昂したのはヴェノムだった。反射的に触手を伸ばし襲撃したヴェノムをエディが押さえようとしたとき、エディはクレタスに噛みつかれる。
 エディもヴェノムもまだ知らない。自らの迂闊な振る舞いが、彼らを凌駕する“最悪”を生み出してしまったことを――


[感想]
 批評的には決して芳しくはなかったが、一般の観客には喜ばれたようで、続篇の発表と相成った――或いは、ヴェノムと、憑依されるエディ・ブロックというキャラクターが、演じるトム・ハーディ自身にとって手応えがあったことが大きかったのかも知れない。でなければ、製作と原案にクレジットされることはなかっただろう。
 実際、本篇のヴェノムとエディの描写は恐ろしく活き活きしている。前作での紆余曲折を経て共存の道を見出したふたりだが、根本の倫理観も目的意識も違うのでしょっちゅう言い争いをし、しばしば室内を滅茶苦茶にするほどの揉み合いにも発展する。特撮の面からも見せ場と言えるこのくだりの、他のシチュエーションではあり得ないドタバタ喜劇が楽しい。物語のうえでは、どのように最凶の敵が現れるのか? というのが大きな引きになっているはずなのだが、この騒動をもっと眺めていたい、と思うくらいにヴェノムとエディのやり取りが魅力的だ。
 しかし、前作のエンドロールでちらりと姿を見せ既に役作りを始めていたと思しいウディ・ハレルソンが演じるクレタス・キャサディも、充分すぎるほど危険な魅力を放っている。明らかに社会通念から逸脱し、予測のつかない言動。近年のヒーロー映画に多い、理想や信念がある悪役ならば控える振る舞いにも躊躇なく及ぶこのキャラクターが強大な力を得てからの展開は、凄惨だがいっそ爽快でもある。あまりの傍若無人ぶりに、きちんと綺麗に着地するのか訝ってしまうほどだ。
 もちろん物語は収束していくのだが、少々残念なのは、伏線の仕掛け方があからさまで、終盤の展開がうっすら透けて見えてしまうことだ。エディと共存していく過程である程度の節度はわきまえるようになったとはいえ、やはり本質は狂暴なヴェノムと、宿主もろとも“捕食者”であるクレタスとカーネイジの、舞台を破壊しながらの死闘は変幻自在で見ごろに富んでいるが、展開に影響を及ぼすパーツがあからさまなので意外性が少々乏しい。あれほどド派手な暴れっぷりなのに、肝心のクライマックスにいささか予定調和の感があるのが惜しい。
 観ていて退屈をさせない尺に、CGを駆使した多彩な見せ場がみっちりと詰めこまれ、娯楽作として優秀だ。ただ、シリーズとしての根が、ドラマとしても奥行きに富んだ傑作を少なからず発表したマーヴェル・コミック、更には映画版でもクオリティの高い作品がリリースされてきた『スパイダーマン』にもあることを念頭に置くと、物足りない印象は禁じ得ない。まして、マーヴェル系ではお馴染みのエンドロール中間に挿入されるひと幕が示唆するものを思うと、明瞭な娯楽作の域を出ないことが惜しい。
 しかし、前作で提示されたキャラクター、世界観の魅力をきちんと踏襲した、という意味では充分に応えた仕上がりだ。自ら原案と製作にも携わったトム・ハーディとの相性も抜群と見えるので、今後の展開にも期待したい。個人的には、マーヴェルや『スパイダーマン』のシリーズに寄り添いすぎず、独自のエンタテインメント路線を貫いてもいい、と思うのだ。もともと批評家やうるさ型よりも、一般の観客にこそ喜ばれてきたのだから、今後も望んでくれた層に届くシリーズであってもいい。ヴェノムとエディの危ういパートナーシップを嬉々として演じるトム・ハーディにもういちど会ってみたい。


関連作品:
ヴェノム
ウォルト・ディズニーの約束
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スパイダーマン』/『スパイダーマン2』/『スパイダーマン3』/『アメイジング・スパイダーマン』/『アメイジング・スパイダーマン2』/『スパイダーマン:ホームカミング』/『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム
ザ・スイッチ』/『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』/『マリグナント 狂暴な悪夢

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