天啓の殺意

天啓の殺意 『天啓の殺意』

中町信

判型:文庫判

レーベル:創元推理文庫

版元:東京創元社

発行:2005年4月22日

isbn:4488449026

本体価格:740円

商品ページ:[bk1amazon]

 長いキャリアを誇る推理作家・中町信が1982年に発表した第6長篇『散歩する死者』を加筆訂正・改題し創元推理文庫に収録したもの。

 乱作から質を落とし、近年文壇から遠ざかっていた推理作家・柳生照彦からリレー形式の犯人当て小説の企画が、小説誌『推理世界』の編集者・花積明日子のもとに持ち込まれた。だが、その小説に描かれていたのは半年前に現実に起きた事件であった。そして、この“小説”の登場を端緒に、関係者の遭難が相次いだ……柳生は何故、こんな小説を執筆したのか? そして、半年前の殺人事件の真犯人はいったい誰なのか?

 まさに“推理小説”らしい推理小説である。作家が持ち込んだリレー小説企画の原稿という体裁を取った序盤のオーソドックスな構成、その後の騙りに満ちた展開、混迷する捜査編と、見抜いてさえ感嘆を禁じ得ない真相。その仕掛け自体は決して込み入ったものではないし、あからさまな伏線を張っているのだが、だからと言って誰もが簡単に解き明かせるわけではなく、仮に解き明かしたとしても著者の創意に敬意を表したくなるはずだ。

 ……それにしても、仕掛けに触れずに感想を書くのが甚だ厄介な長篇である。個人的には“謎の匙加減”の巧みさに最も感心したのだが、その理由を説明しようとするとどうしても仕掛けを部分的にでも割ってしまうので、躊躇せざるを得ない。

 ともあれ、文芸的な要素など重要ではない、“推理小説”らしい推理小説を読みたいと念じている向きには、かなり満足のいく作品であると思う。

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