「弩」怖い話3 Libido with Destrudo

「弩」怖い話3 Libido with Destrudo 「弩」怖い話3 Libido with Destrudo』

加藤一

判型:文庫判

レーベル : 竹書房文庫

版元:竹書房

発行:2006年4月6日

isbn:4812426030

本体価格:552円

商品ページ:[bk1amazon]

「超」怖い話』シリーズ最古参の執筆者である著者単独名義による番外編、約1年振りの第3巻。1巻では小説風に処理、2巻では一家にまつわる悪意の連鎖を綴っていたが、今回はある意味最も避けられてきた領域、房事や尾籠な状況に関係したエピソードばかりを集めている。歯止めを失ってしまったナースの辿った末路を綴る『死ぬ部屋』、下着だけが果てしなく盗まれる奇妙な部屋の出来事『泥棒』、『チョコレート』『七人』『虫』といったラブホテルでの真っ最中を襲う怪奇体験など、他所ではあまりお目にかかれないエピソードを収録する。

 著者が巻頭で語っているとおり、確かにあらゆる瞬間に襲いかかってくる“怪奇”が、人間の最も油断している瞬間だけ避けてくれるはずもない。表沙汰にならなかったのは、怖さよりもそのシチュエーションが印象に残ってしまったり、当事者の反応と異様な出来事との対比による滑稽さが強調されがちなせいもあるのだろう。

 実際に並べられてみると――案の定、怖いよりも“可笑しい”話のほうが多い。いや、そりゃ当人は怖いのだろうが、やはり彼氏の頭の上にソレが見えるとか、昇天するときにお婆ちゃんの顔がダブるとか、あちらの方に後ろの初めてを奪われるとか聞いても、怖いよりは笑いのほうがどうしても先に来てしまう。当人にとっては洒落にならない状況だろうし、特に最後のなどは我が身に生じることを想像すると本気で怖いのは間違いないのだが。

 そんななかにも収穫と呼べるエピソードがあるのは、取材量の多さがものを言っているのだろう。『ミニスカ』や『月の楽しみ』などは性的な主題に絞った巻だからこそ語り得た異様な現象であるし、巻末を飾る『実家』『夜這い』は洒落にならない気配を纏っている。ただそれでも全般に、性や尾籠な状況を省いたら割と『「超」怖い話』シリーズにありがちな内容が多いのが残念に感じる。

 しかし、どれほどあり得そうもない状況にあっても“怪異”は訪れるのだ、ということをきちんと記録に残したという意味で、本書は意義のある怪談本である。あまり怪談を読まないと言われる、男性中年層の取り込みが可能かどうかは別として、これまでの『「弩」怖い話』シリーズ同様に意欲的な怪談本であることは間違いない。

 余談であるが、個人的には『死ぬ部屋』と『天使の輪』の、同じ看護師でありながらまったく正反対の方向性に走っている事実がちょっと興味深かった。後者は前者の乱行ぶりをフォローしているような赴きもあるが。

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