『アンダーワールド:ビギンズ』

『アンダーワールド:ビギンズ』

原題:“Underworld : Rise of the Lycans” / 監督:パトリック・タトポロス / キャラクター創造:ケヴィン・グレヴィオー、レン・ワイズマン、ダニー・マクブライド / 原案:レン・ワイズマン、ロバート・オー、ダニー・マクブライド / 脚本:ダニー・マクブライド、ダーク・ブラックマン、ハワード・マケイン / 製作:トム・ローゼンバーグ、ゲイリー・ルチェッシ、レン・ワイズマンリチャード・ライト / 製作総指揮:スキップ・ウィリアムソン、ヘンリー・ウィンタースターン、ジェームズ・マクウェイド、エリック・リード、ベス・デパティー / 撮影監督:ロス・エメリー / プロダクション・デザイナー:ダン・ヘナ / 編集:ピーター・アムンドソン / 衣装:ジェーン・ホランド / 音楽:ポール・ハスリンガー / 出演:マイケル・シーンビル・ナイローナ・ミトラ、スティーヴン・マッキントッシュ、ケヴィン・グレヴィオー、シェーン・ブローリー、ケイト・ベッキンセール / レイクショア・エンタテインメント製作 / 配給:Sony Pictures Entertainment

2009年アメリカ作品 / 上映時間:1時間30分 / 日本語字幕:藤澤睦実 / R-15

2009年3月14日日本公開

公式サイト : http://underworld2009.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/03/19)



[粗筋]

 これは、ヴァンパイア族の女処刑人・セリーン(ケイト・ベッキンセール)の死闘により決着を見たヴァンパイア族とライカン(人狼)族の対立、その原点の物語である。

 不老不死の始祖・コルヴィナスが作りだした、異なる資質を持つふたりの息子マーカスとウィリアムの子孫たちは長い間争いを繰り返していたが、ルシアン(マイケル・シーン)の誕生がその構図に変化を齎した。本能に駆り立てられていたウィリアム系の子孫で初めて、彼は人間から人狼へ、人狼から人間へと自在に変化する性質を持っていたのである。ルシアンを捕らえたヴァンパイア族の長老ビクター(ビル・ナイ)はルシアンを意図的に飢えさせることで人間に噛みつかせ、ルシアンの性質を受け継いだ新種族ライカンを奴隷として利用し始めた。

 ビクターは敵対するウィリアム系統の血筋であるルシアンを優遇したが、このことが思わぬ事態を招いてしまう。ビクターの娘であり、優れた女戦士であったソーニャ(ローナ・ミトラ)とルシアンが恋に落ちたのだ。

 ふたりは人目を忍んで逢瀬を重ねていき、ソーニャはどうにかふたりで生きていく道を見つけようとするが、ルシアンは自らの手で生み出したライカンたちが奴隷として虐げられている様を、黙過することが出来なくなる。

 ルシアンとビクター、ソーニャの微妙な関係は、やがて破綻を来した。会議のために遠方からやって来る親戚をソーニャたちが警護していたとき、異常な数の敵勢が襲来、ルシアンはソーニャを救うため、ビクターの禁を破って人狼に変身してしまう。

 救援の訪れもあってソーニャたちは無事に城に戻ることが出来たが、ルシアンは裏切りによって罰せられ、ビクターが与えた特権を剥奪され投獄される。文字通り、“獣”扱いされている同胞たちを間近に目撃したルシアンは遂に、彼らを救う意を固めたのだった……

[感想]

アンダーワールド』、『アンダーワールド:エボリューション』と2作が発表された、現代の夜の闇を舞台に、ふたつの異種が繰り広げる死闘を描いたシリーズの最新作であり、前2作の背景にある出来事を描いた作品である。

 監督はレン・ワイズマンからパトリック・タトポロスにバトンタッチしたが、雰囲気はきちんと受け継いでいる。ワイズマンは製作などで参加しているし、そもそもタトポロスはクリーチャー・デザイナーとして第1作から携わり、ライカン族の外貌を作りあげてきた人物である。初監督とは言い条、呼吸を充分に理解しているので、シリーズ旧作からのファンが観て違和感を覚えることはないだろう。

 しかし、これはやむを得ないことなのだが、シリーズ旧作に存在していた、現代社会の暗がりで繰り広げられる異種同士の常識を超えた戦いを描く、というユニークな特質が失われているのが残念だ。ゴシック風のセット・デザインは映像として魅力的ではあるのだが、結果的によくあるファンタジー・アクション映画の趣になってしまっている。

 また、アクション表現の部分でいささか不慣れなところが見受けられるのも気になる。スタイリッシュさを踏襲し、また戦いの性質上頻繁に舞い散る血飛沫のインパクトを和らげる必要性もあって、映像の切り替えを素速く行っているのだが、そうでなくても多対多の戦闘が中心なので、観ていて混乱するのだ。終盤、少数対多数の戦闘でも同じ傾向が見られる。かと思うと、一対一の戦いでは見せ場が乏しく、呆気なく終わってしまった感がある。もう少しアクションの見せ方に工夫が欲しかったところだ。

 だが他の点については問題ない。非常に堅実に組み立てられている。ヴァンパイア族の君主ビクターの寵を受けていたルシアンが何故反旗を翻したのか、前作・前々作に結実する複雑な因縁の始まりを、平易に綴っている。言ってみれば、前作・前々作にとって“神話”に位置づけられるようなエピソードであるために、奴隷たちの解放や異種族同士の禁じられた恋、といった定番の要素で構成されているが、過程を要領よく辿っているために、説得力がある。とりわけ、ドラマ部分の見せ場の作りは、シンプルだからこそ印象的だ。

 中心となる、ヴァンパイア族の君主ビクターの見事な貫禄、ライカン族の始祖となったルシアンの未成熟なカリスマ性、そして両者にとって運命的な存在となる女戦士ソーニャの描き方も、決して特異ではないが堂に入っていて力強い。旧作を知っていたほうが、ネタばらしにもならないし、より掘り下げて鑑賞できるのは間違いないが、仮に本篇からいきなり観ても充分に楽しめる水準に達している。

 如何せん、従来のシリーズを個性的にしていた要素が、時代を遡ったせいでまったく機能せず、凡庸に感じられてしまうのは否めないが、堅実に仕上げられた、好感の持てる作品である。シリーズ全体として眺めても、順繰りに鑑賞し、本篇を観たあとでもういちど第1作に戻ると、また違った見方が出来る楽しみもあるだろう。

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