『HOME 空から見た地球』

HOME 空から見た地球 [DVD]

原題:“Home” / 監督:ヤン・アルテュス=ベルトラン / 脚本:イザベル・ドゥラノワ、ヤン・アルテュス=ベルトラン、ドゥニ・カロ、イェン・ル・ヴァン / ナレーション台本:イザベル・ドゥラノワ、テウフィック・ファーレ、ヤン・アルテュス=ベルトラン / 製作:ドゥニ・カロ、リュック・ベッソン / 製作総指揮:フレッド・ドニギュアン / シネフレックス撮影:タンギ・テュオ / 編集:イェン・ル・ヴァン / 助監督:ドロテ・マルタン / プロダクション・マネージャー:ドャン・ドゥ・トレマゴン / コーディネーター:カミーユ・クロー / 音楽:アルマン・アマール / ナレーター:グレン・クロース / 日本TV版ナレーション:道端ジェシカ / 配給:Asmik Ace

2009年フランス作品 / 上映時間:2時間(無料配信版:1時間30分) / 日本語字幕:小寺陽子

2009年6月5日全世界一斉公開

2009年6月5日DVD日本盤発売 [bk1amazon]

公式サイト : http://home.asmik-ace.co.jp/

DVDにて初見(2009/06/04)



[概要]

 UNESCO支援のもと15年にわたって、空から見た地上の姿を捉えてきた写真家ヤン・アルテュス=ベルトラン。本篇はうち1年9ヶ月を費やしてフィルムを回し、都合488時間も撮影された空撮映像を構成、自然や人々の営みを切り取り、自然の美しさと人間の開発がそれに齎した影響とを克明に辿っていったドキュメンタリーである。

 ベルトランは本篇を全世界的に無料で公開したい、という意向を持ち各界に協力を求めたが、複数の大手企業が出資を承諾、リュック・ベッソンを代表とするヨーロッパ・コープの配給を得ることが出来た。

 かくして、2009年6月5日の“世界環境デー”に、劇場、テレビ、インターネットなど様々な媒体を用いての、一斉配信が行われる運びとなった。

[感想]

 あれこれ私感を連ねるよりは、とりあえず観てくれ、と言ってしまったほうが早そうだ。前述の通りにこの作品は、無料で配信・放送が行われている。もしWOWOWを視聴できる環境があり、2009年6月6日の18時前にこれをご覧になっているなら、チャンネルを合わせていただきたい。WOWOWが受信できなくても、いまこれをご覧になっている方ならば、YouTubeにアクセスすることは可能だろう。生憎、日本語のナレーションを添えたヴァージョンは配信されないようだが、それでも映像だけは確認できる。面白いとか詰まらないとかは問題ではなく、本篇は観た上で何かを感じていただくのがいちばん手っ取り早い。

 とはいえ、無料だからとはいえ本篇は、決して手を抜いた作りになっていない。

 ドキュメンタリーには、ストーリーが構築しにくいために、長篇映画として組み立てるとどうしても観客を牽引しきれない、という欠点がある。もともと別々に撮られた素材を編集して作るため、どれほど選び抜いても物語として一貫した筋を抽出しにくいうえに、本篇の場合はすべて空撮による映像で統一され、インタビューなど他の方法で撮影した素材がない。そうしたことから、かなり退屈な作品になっている可能性も疑っていたのだが、本篇は得られた素材をもとに明快な流れを構築しており、思いの外飽きが来ない。

 そもそも映像自体のインパクトが強いのだ。上空から見下ろす氷河や山脈の映像は、私たち本来の目線から想像もできない表情をしており、説明がないせいもあって、いったい何を撮しているのか解らないものさえある。とても広範囲を捉えた映像にも拘わらず、まるで顕微鏡で微生物の姿を眺めているような錯覚さえ感じる。

 そうして神秘的な大自然の光景をひととおり並べ、それらが象徴する地球の歴史、生命の誕生を追ったあと、ナレーションの言葉が補助する“物語”は人類の誕生に移る。当初は狩猟中心であった人類が移動を重ね、農耕を発明すると、瞬く間に各所に文明を築きあげる。初めのうちは大地に拙い筆で線を引くような印象だった自らの肉体を用いた農耕は、やがて都市の形成を経て急速に発達する。機械を用いるようになり、その動力として資源を大量に費やし、やがては何億年もかけて強固に繋がれていた自然の連鎖を断ちきってしまう。

 空撮によって集められた映像の数々が、そういう残酷なドラマを如実に描き出していたのも確かだろうが、2時間をほとんど飽きさせないのは、製作者たちのセンスと、高い問題意識に因ると思われる。

 たっぷりと映像で戦慄させたあと、テロップを用いて更に不安材料を積み重ねてこられると本気で足許が覚束無い心地がしてくるが、そのあとに政府や一部の人々による環境保護のための試み、新たなエネルギー資源探求の努力を示して、一縷の光も覗かせてくれる。人類のやって来たことを今更撤回は出来ないが、地球を私たちの“故郷”のままでいてもらう努力は今からでも出来る。

 無料公開版ではどこがどの程度カットされているのか解らないが、2時間の尺でこの牽引力を留めているのなら、90分でも恐らくは高い質を保っているはずだ。とりあえず興味本位でもいい、いちどご覧になることをお薦めする。出来云々よりも、観て、感じてもらうことこそこの作品の最も望んでいることなのだから。

 You Tubeにアップされた無料配信版のアドレスは下記のとおり。

  http://www.youtube.com/watch?gl=JP&feature=channel&hl=ja&v=jqxENMKaeCU

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