『アルティメット2 マッスル・ネバー・ダイ』

『アルティメット2 マッスル・ネバー・ダイ』

原題:“Banlieue 13 – Ultimatum” / 監督:パトリック・アレサンドラン / 製作・脚本:リュック・ベッソン / 製作総指揮:ディディエ・オアロ / 撮影監督:ジャン=フランソワ・アンジャン / プロダクション・デザイナー:ユーグ・ティサンディエ / 衣装:ティエリー・ドゥレトル / ファイト・コレオグラファー:シリル・ラファエリ / “パルクール”デザイン:ダヴィッド・ベル / 音楽:ダ・オクトプゥース、アレクサンドル・マウ / 出演:シリル・ラファエリ、ダヴィッド・ベル、ダニエル・デュヴァルフィリップ・トレトン、パトリック・ステルツェル、エロディ・ユン、MCジャン・ギャプ’1、ジェームズ・ディアノ、ラ・フイヌ、ファブリス・フェルツジンガー / 配給:Asmik Ace

2009年フランス作品 / 上映時間:1時間41分 / 日本語字幕:松岡葉子

2009年9月19日日本公開

公式サイト : http://ultimate2.asmik-ace.co.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2009/09/21)



[粗筋]

 卑劣な罠からバンリュー13地区が救われてから3年後の2013年。

 政府は当初、バンリュー13地区に巡らせていた壁を撤去、公共施設も復活させると約束していたが、依然として果たされていなかった。悪党たちは人種別に徒党を組むようになり、複数の勢力が混在することで、ますます13地区の治安は悪化している。

 そんななか、最悪の事態が発生した。バンリュー13地区で、パトカー相手にギャングたちが発砲している様子が撮影、テレビで全国的に流れたのである。

 フランス中に不穏な空気が流れ、封鎖区画の近辺では警察とギャングたちとの衝突が繰り返されるようになった。このまま放置すればパリが火の海になりかねない、という一触即発の状況に苦悩するフランス大統領(フィリップ・トレトン)に、秘密保安介入局長官ウォルター・ガスマン(ダニエル・デュヴァル)は荒療治を提案する。諸悪の巣窟であるバンリュー13地区を、爆撃して無に返してしまえばいい、と。

 その頃、潜入捜査官ダミアン(シリル・ラファエリ)は思わぬ災難に見舞われていた。中国系マフィアの麻薬取引を巡る捜査を終え帰宅したその翌朝、突如踏み込んできた警官隊によって取り押さえられ、身に覚えのない麻薬密売容疑で逮捕されたのだ。嵌められたことを察知したダミアンは、拘置所に入れられる直前に機転を働かせ、看守から携帯電話を奪うと、ある人物に助けを求める。

 電話の相手――レイト(ダヴィッド・ベル)も同じ頃、奇妙な出来事に遭遇していた。顔馴染みの青年が彼にSDカードを託すと、間もなく無数の警官達によって連れ去られてしまった。家に戻り中身を確認したレイトは驚愕する。そこに記録されていたのは、バンリュー13地区で蜂の巣にされたはずのパトカーが、それ以前に何者かに襲撃された一部始終であった。

 様々な情報を総合して推理を重ねたレイトは、バンリュー13地区を巡る一触即発の事態が、何者かの謀略であったことを察する。そしてまさにその時、レイトのアジトを、男たちが急襲した――!

[感想]

 本篇は2004年に製作されたフランス産のアクション映画『アルティメット』の続篇である。監督こそピエール・モレルから、ブラック・コメディ『赤ちゃんの逆襲』を手懸けたパトリック・アレサンドランにバトンタッチしたが、主演のシリル・ラファエリとダヴィッド・ベルは再登板、脚本・製作のリュック・ベッソンをはじめ多くのスタッフも続投しているので、作品のイメージに大きな変化はない。前作を楽しめた人なら、今回も安心して鑑賞できるはずだ。

 ただ、違和感を覚えない一方で、食い足りない気分を味わう可能性も否定できない。

 特に顕著なのは、構成が若干緩めになっていることだ。前作は、レイトとバンリュー13地区を牛耳る組織との対決が冒頭でいきなり描かれ、やや意表をついた形で一段落する。続いてすぐさま潜入捜査官・ダミアンの、物語全体とは別のところでの活躍が描かれ、前章での主人公レイトが加わると、ほとんど息をつかせる暇もなく本題に突入していく。過程において幾度もトラブルを生じたり、行き当たりばったりにも見える言動が織りこまれ、観る側の関心を逸らさない。それに対して本篇は、序盤で盛んに視点が切り替わるせいもあって、まだるっこしい印象を受ける。あとになれば意味はある描写ばかりだと解るのだが、完璧に整頓していた前作のイメージが残っていると、どうしてもテンポの悪さの方を強く感じてしまうのだ。

 舞台は無論のこと、アクションの見せ方も前作を踏襲しているので、先にあちらで充分度胆を抜かれた目には、やはりもうひとつインパクトが足りないように見えてしまう。

 だが、全体的に出来が悪くなっている、ということはない。むしろ、作品のいいところをきちんと押さえているが故に、目新しさが乏しくなっているだけのことだ。生身のアクションが備える迫力、重量感はまったく損なっていない。プロローグ的なパートでダミアンが披露する、包囲してくる男たちと同時に拳を交え、高価な絵を守りつつカジノのデザインを活かしての格闘は華麗かつ重量感に溢れ、アジトを急襲されたレイトが屋根から屋根へ、窓から窓へ、と縦横無尽に跳ねまわる様はスリリングかつスピード感充分だ。高いビルの屋上から、3階ほど下にある別のビルの屋上へと跳躍するシーンをロングショットで撮影している場面など、あまりの光景に開いた口が塞がらなくなる。

 そしてクライマックス、ダミアンたちが集団である場所を襲撃するくだりは、アクションのヴァリエーションという意味では物足りないが、観ていて痛快極まりない。それまでは、バンリュー13地区の悪党グループ各個に見せ場はほとんどないのだが、ここに来て各々の特技を活かしたアクションを披露したり、気の利いた台詞を放ってニヤリとさせてくれる。

 好き放題に彼らの縄張りを荒らし回った連中に対する胸のすくような反撃も素晴らしいが、しかし本篇で最も印象的なのは、最後に彼らが選んだ行動だ。主導するダミアンとレイトに、本篇の黒幕ほどではないが数多の悪事を重ねてきたと思しいボスたちがあまりに素直に従いすぎているのが幾分引っ掛かるが、しかしこの潔さも含めて、やたらと格好いい。エンドロールの途中で付け足されるワンシーンも含めて、普通のアクション映画とは異なる爽快な余韻を残す。

 前作をあまりにも素直に踏襲しすぎたが故の物足りなさがどうしても残念に思えるが、重みのあるアクションに生々しいスピード感とを兼ね備えた、見応えのあるアクション映画である点もきっちり受け継いでいるので、前作が好きだった人であれば、満足するかどうかはともかく納得のいく仕上がりであろう。主人公2人や壁によって封鎖された区画、という設定以外に引っ張っている部分はないので、CGや早回しに頼らない生身のアクションを好む人であれば、仮に前作を観ずとも堪能できるはずだ。

関連作品:

アルティメット

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