『マリアンヌ』

TOHOシネマズ日本橋が入っているコレド室町2入口に掲示されたポスター。

原題:“Allied” / 監督:ロバート・ゼメキス / 脚本:スティーヴン・ナイト / 製作:グレアム・キング、ロバート・ゼメキス、スティーヴ・スターキー / 製作総指揮:パトリック・マコーミック、スティーヴン・ナイト、デニス・オサリヴァン、ジャック・ラプケ、ジャクリーン・レヴィン / 撮影監督:ドン・バージェス / プロダクション・デザイナー:ゲイリー・フリーマン / 視覚効果スーパーヴァイザー:ケヴィン・ベイリー / 編集:ジェレマイア・オドリスコル、ミック・オーズリー / 衣装:ジョアンナ・ジョンストン / キャスティング:ニナ・ゴールド、ロバート・スターン / 音楽:アラン・シルヴェストリ / 出演:ブラッド・ピットマリオン・コティヤールジャレッド・ハリスサイモン・マクバーニー、リジーキャプラン、ダニエル・ベッツ、マシュー・グードカミーユ・コタン、アウグスト・ディール、ティエリー・フレモン / 配給:東和ピクチャーズ

2016年アメリカ、イギリス合作 / 上映時間:2時間4分 / 日本語字幕:松浦美奈 / PG12

第89回アカデミー賞衣裳部門候補作品

2017年2月10日日本公開

公式サイト : http://Marianne-movie.jp/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2017/2/20)



[粗筋]

 1942年、フランス領モロッコ。現地でレジスタンスを展開するフランスの組織が主導する、現地に駐在するドイツ大使の暗殺計画を手助けするべく、マックス・ヴァタン(ブラッド・ピット)は落下傘で現地に降り立った。

 マックスの役割は、エリートである夫の帰りを待ち、日々社交界に出入りする女性の夫を演じて、ドイツ大使が現れるパーティへと共に潜入することだった。到着してすぐにマックスは、それまで顔も合わせたこともない女性を、心から愛する夫として振る舞わなければならない。

 そうして出会ったのが、マリアンヌ・ボーセジュール(マリオン・コティヤール)だった。お互いに本当の素性はもちろん、過去など何も知らないまま、作戦のためにマックスのケベック訛のフランス語を修正し、仲のいい夫婦を演じる。

 あくまで必要のために夫婦を演じているに過ぎず、過度のスキンシップは任務の妨げになる、というのは共通の認識のはずだった。だが、共に時間を過ごすうちに、ふたりにはある種の絆が育まれていった。いよいよ潜入というその日、死を覚悟したふたりは、身体を重ねるのだった。

 作戦当日、現場は大いに混乱するが、ふたりは見事に大使を殺害、揃って脱出にも成功する。逃亡のさなか、マックスはマリアンヌに、ロンドンで結婚しよう、と提案した。

 任務の中で出来たカップルが幸せになれるはずがない、と周囲に諭されながらも、マックスはマリアンヌとの結婚を認めさせた。未だに戦火は絶えず、ロンドンもたびたび空襲に悩まされるが、そんななかでマリアンヌは娘を出産、ふたりは着々と幸せな家庭を築いていく。

 だが、あるとき、かつてマリアンヌが在籍していたセクションから呼び出しを受けたマックスは、そこで衝撃的な話を聞かされるのだった――

[感想]

 冒頭、ブラッド・ピット演じるマックスが降り立った地が戦時中のフランス領モロッコであることから、映画好きならまずワクワクせずにはいられないはずだ。何せ、伝説的な傑作、『カサブランカ』の舞台であり、レジスタンスに協力する、というシチュエーション自体もあの名作を彷彿とさせる。

 ストーリー展開こそ大幅に違うものの、本篇が『カサブランカ』を意識して製作されていることは疑いのない事実だ。パンフレットに掲載されたスタッフのコメントからも窺えるが、完成された作品を観ても、とりわけ美術に『カサブランカ』への憧憬が如実に表れているのが解るはずだ。

 そして、内容自体も至って『カサブランカ』的である。途中で放たれる“名台詞”が一人歩きしている感が強い同作だが、その実、戦争中の謀略を描いたサスペンスとしての興趣も備えた、上質のエンタテインメントなのである。本篇もまた、ブラッド・ピットマリオン・コティヤールという名優ふたりによるメロドラマ、という側面を強く主張しながらも、前半はロマンス混じりの謀略ものであり、中盤以降はヒロイン・マリアンヌの秘密を巡るサスペンスの側面を強調する。その随所で爆撃や銃撃戦といった派手な見せ場があることも、本篇がエンタテインメントたらんとしていることの証左であろう。

 ただ、ミステリとして接すると、いささか物足りなく思えるのも事実だ。謎解きとしての奥行きに乏しく、率直に言って意外性もない。幾つか思い浮かぶ想像のうちのひとつにあっさりと着地してしまう感がある。

 しかし、だからこそ本篇は感情移入しやすくなっている、とも言える。疑惑を突きつけられたマックスの苦悩も、彼の態度を受けてのマリアンヌの反応も、それらが誘導するクライマックスの心揺さぶる展開もまた、過剰に複雑なプロットにしなかったからこそ際立っているのだ。

 設定や物語の構造ばかりでなく、シチュエーションやそれを捉えた構図の美しさも本篇の魅力のひとつである。冒頭、モロッコの砂漠にブラッド・ピット演じるアランが降り立つ場面、マックスとマリオン・コティヤール演じるマリアンヌが初めて出逢うシーン、砂漠に駐めた車の中で演じられるラヴ・シーン、空襲を受けるなかでの出産のくだり等々、この設定だからこそ描きうる場面を、華麗な構図で魅せる。こうした映像がもたらす昂揚感もまた、クラシカルな風合いを意識した映画ならではだ。

 あまりにも大掛かりでありながら安易にも映るメロドラマぶりに、食傷気味だ、と感じるひともたぶんあるだろう。だが本篇は、一見安易そうな構造の奥に繊細な神経が通った作品でもある。少しでも本篇に惹かれるものを感じたひとは、鑑賞したあと、登場人物の感情の変化に思いを馳せていただきたい――そうして考えたとき、単純に見えた物語の奥深さ、感情表現の細やかさと、それが醸しだす豊かな味わいに気づくはずだ。

カサブランカ』を筆頭とする、クラシカルなエンタテインメントへのオマージュを捧げながら、きちんとオリジナルとして組み立てられた、古めかしくもどっしりとした佇まいの秀作である。近年、フィクションならではのドラマチックさを備えた作品にあまりお目にかかれない、とお嘆きの方にお薦めしたい。

関連作品:

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