ヒロインの森奈津子をはじめ、倉阪鬼一郎・牧野修・野間美由紀といったミステリ業界の実在の作家陣を作中に登場させた、西澤保彦の異色中篇。恩田陸『puzzle』、歌野晶午『生存者、一名』、近藤史恵『この島でいちばん高いところ』とともに、祥伝社文庫15周年記念400円文庫シリーズ中の「無人島」テーマ競作のひとつとして上梓された。
[粗筋]
わたしこと森奈津子は、倉阪鬼一郎氏と牧野修氏と共に居酒屋で飲んだあと、道端でぶつかったゴージャス美人に迫られ、気付くと無人島に囚われていた。あらどうしよう、と思ったのも一瞬のこと、そこでの生活のあまりに快適さに、瞬く間に馴染んでしまう。夏といえど空調もあればクーラーもあり、冷蔵庫にはキンキンに冷えたビールからボイル済みの毛ガニまで豊富に蓄えられているときては。双眼鏡で、海を隔てたもう一つの島にいる男性と奇妙な交歓を持ち、こちらを「ユリ島」あちらを「アニキ島」と名付けたりしながら、日々妄想に耽るという、およそ拐帯されたとは言い難い理想的な生活を送っていたが、それはある日、「アニキ島」に大挙した警察によって壊された。「アニキ島」で、件の男性が死体となって発見されたために。
[感想]
キャラクターは面白い。何せ実在の完成された人物たちを利用しているわけだから当たり前だ。姿やお声を聞いたことのある某氏や某氏など、その台詞を発しているときの仕草まで目に浮かぶぐらいである。ただ――ミステリとしては、どうも誉めにくい。相変わらず中盤の試行錯誤や推理過程はアクロバティックで面白いのだが(野間美由紀さんならこの位言いそうな気がする、確かに)、如何せんキャラクターが魅力的に過ぎ、その所為で肝心のミステリ部分が多いに割を食っている。また、(以下ネタバレのため反転→)犯人からの書簡という形で唐突に幕が引かれているのも、(←)推理物語としてちょっと安易に過ぎる、という気がしてならない。一篇の作品としては非常に傷が多い、と言うのが率直な感想。しかし登場人物と、試行錯誤部分の牽引力は相変わらず天下一品であり、その部分を楽しむと割り切れば不満はないのではなかろうか。作品としてのクオリティは、本書をパイロット版とするシリーズ本編の方で期待しよう。2000/11/13現在小説推理誌上にて『両性具有迷宮』の題名で連載中なので、纏まるまでにはまだ時間がかかるだろうけれど。
|
コメント