『食卓にビールを3』
判型:文庫判 レーベル : 富士見ミステリー文庫 版元:富士見書房 発行:平成17年2月15日 isbn:4829162902 本体価格:560円 |
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奥様は新進気鋭の小説家にして花も恥じらう(?)16歳の女子高生。日々身辺に押し寄せる謎のSF事象をマイペースで解決……というか受け流してしまう未だ氏名不詳のヒロインが活躍する連作シリーズ、初の単行本から半年で早くも三巻目。大掃除中に我が家に巨大なエネルギー源の末端が出没してしまった『大掃除篇』、学園七不思議と未来を改編しに来た来た人々を絡める『スナイパー篇』、初めてヒロインの創作背景が明かされる(……のか?)『廃墟篇』と、雑誌掲載分二本に書き下ろし六本の大盤振る舞い。
とりあえず、“現代の怪談”と“都市伝説”はイコールではないのでその点説教してもいいですか。厭ですか。あっそ。 ……のっけからなんですが、全般にそんな些末なところが楽しいのがこのシリーズ。ちょっと長篇風味になった前巻からふたたび純然たる短篇連作に戻っております。相変わらず、起きていることは派手なのに外見はミニマム、主人公のツッコミ一発で解決してしまうことも屡々という大規模なんだか卑小なんだかいまいち解らない事件の応酬もさることながら、それらに対するヒロインの反応が素晴らしい。ちょっと待てどう考えても地球の話じゃなくなってるのはツッコミなしかおい、という不動産のエピソードとか、「はいりはいりふれはいりほー」が咄嗟に出てくる時点でこの娘の十六歳という設定は覆されているような気がするんですが違うかだいいち今のこの世代が「大きくなれよ〜」なんて知ってるのか?! とかそこでカニパンを出してくるのかとか細かいところがただただ楽しい。 反面、執筆ペースが速すぎるのか紙幅に対して詰め込むSFガジェットが大きすぎるのか、出来事の説明が全般に舌足らずになっているようなのが気になります。本巻の最高傑作は散歩道が宇宙戦争の舞台になってしまう『降臨篇』だと思っているのですが、ヒロインの素晴らしすぎるツッコミで解消されるまで現象の全体像が掴みづらいのがちょっと勿体ない。途中、理論が高度すぎて当初問題を持ちかけた人間も理解不能に陥っているという構図は楽しかったのですが、SF属性、さもなきゃ最低限のSF耐性がないと乗り越えられない描写のようにも感じます。 とは言え、一篇一篇が手頃なサイズなので実に気軽にSFチックな雰囲気を堪能できて一切後腐れがない、という希有なスタイル、加えて十六歳の花嫁という人によっちゃいくらでも暴走可能な設定を敢えて機能させないなどの微妙な無意味さ加減は変わらず。今後もこの調子で巻を重ねて頂きたい。 |
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