愛と哀しみのエスパーマン

愛と哀しみのエスパーマン 『愛と哀しみのエスパーマン

秋田禎信[著]/渡真仁[イラスト]

判型:文庫判

レーベル : 富士見ファンタジア文庫

版元:富士見書房

発行:平成17年10月25日

isbn:4829117621

本体価格:520円

商品ページ:[bk1amazon]

 前々から想いを寄せていたクラスメイトにこれ以上ないほどの罵詈雑言を浴びせられてフられた王子悟。どういうわけかその瞬間から悟は超能力に覚醒してしまった――しかも、“哀しみ”を原動力とする甚だ厄介な力に。いち早くそれに勘づいた学校の先輩にして“喜び”を糧とする超能力者・金郷地小五郎に目をつけられてしまったばっかりに、悟は彼と共に世界を守るヒーローの役回りを演じる羽目になる。自分への誕生日プレゼントが思いつかなかったばっかりに、世界を征服してそれを贈るという突拍子もないことを思いついた叔父のためににわかに悪の首領をやらされることになった気弱な女子高生・猿渡愛に、実は悟と相思相愛なのにいざとなると本心が罵詈雑言に彩られるという厄介な性分に生まれついてしまった都合涼香という面々も交えて、状況は勘違いに勘違いを重ねてややこしいことに。不幸な超能力ヒーロー・王子悟の行く末はどっちだ?!

 進む道すべてが壊れている脱線コメディ。どう足掻いても普通に目的地にたどり着けません。ヒーローものの孕む根本的な矛盾に自覚的になり、徹底的に茶化しつつも読者の意表を衝く方へと導いていく筆捌きはある意味、圧巻である。

 あとがきによると、ほとんど全体の構成を考えないまま話を組み立てていったということだが、そのせいか中盤は登場人物たち以前に作者が話の全体像を掴みかねて迷走している感がある。事態をいちばんややこしくしている張本人・金郷地の知られざる側面を描いた箇所があるが、このあたりの重みは明らかに話の中で浮いている。あとでちゃんとひっくり返してくれるのだが、全体として眺めたときの収まりの悪さがどうにも気に掛かった。

 しかし基本的には作品全体に横溢するお遊び感覚がひたすらに楽しいだけの話である。ヒーローものの自覚的なパロディであること以外にテーマなどないに等しいが、だからこそ気軽に楽しめるのである。随所に『X−MEN』など東西のヒーローものを思わせる記述があるのもまた嬉しい。

 いちおう全六話でひとまず幕引き、という格好になっているものの、主人公・悟を巡る出来事のひとつに片が付いたというだけで、実際には物語世界は更に混迷を深めている。けっきょくあの人は状況を打開できなかったし、あの人まで巻き込まれたってことは今後あの人との関係が更にややこしくなって十何話ぐらい経った頃に非常事態が発生するんじゃ、と想像を掻き立てられるが、それもまた一興。これ以上無駄に語り継ぐことなく、ここで幕を引くからこそ味わいがある。

 如何せん登場人物が全員常軌を逸しているので、ノリ損ねるとただただ引くしかない代物だが、いっそ頭を空っぽにして「何やってんだこいつら」とその挙動不審ぶりを楽しんでいただきたい。――しかし個人的には内容よりも何よりも挿絵における涼香のヘアバンドからはみ出た触角が一体何なのかが最後まで気になって気になって仕方なかった秋の夜であった。

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