クロスカディア(6) 星メグル地ノ訪問者タチ

クロスカディア(6) 星メグル地ノ訪問者タチ クロスカディア(6) 星メグル地ノ訪問者タチ』

神坂一[著]/谷口ヨシタカ[イラスト]

判型:文庫判

レーベル : 富士見ファンタジア文庫

版元:富士見書房

発行:平成17年2月25日

isbn:4829116897

本体価格:520円

商品ページ:[bk1amazon]

 五つの月が空を巡り、律崩術(クランブル)という力が生活の根幹に根付いた世界――クロスカディア。四つの大地にはそれぞれ異なる種族が暮らし、うち最も肉体的に劣りながら様々な道具を駆使して律崩術を御する人間族の少年シンことシンドレッド=カイラムはある日、ひとりの妙な少女と出会う。自らを悪と言い、逢うなりシンを部下呼ばわりした彼女・メイはどういうわけか、道具なしで律崩術を操り肉体的精神的に人間よりも高いポテンシャルを誇る魔妖族に命を狙われていた。はじめは成り行きからメイを守っていたシンだが、いつか明確な目的をもって彼女と旅を共にする――メイを両親に逢わせるため。鱗と翼と爪を備える部族・鱗王族や様々な獣の姿に身を変じる憑霊族と協力し、或いは対立し、利用し利用されながら旅を続けた彼らは、遂に月に到達する……

 神坂作品は基本的にコメディタッチ、気楽に読めるというライトノベルの王道らしい書きっぷりが魅力なのだが、一方で実はなかなか一筋縄ではいかないテーマを背後に設定していたりする。デビュー作であり、未だに短篇連作が巻を重ねている『スレイヤーズ!』の長篇シリーズにしても、『シェリフスターズ』にしてもそうだ。とりわけ後者と本編は“作る者”と“作られた者”の関係性という、ファンタジーでもSFでも最も厄介なテーマを秘め、そこにいかなる形で救いを見出すかに焦点が注がれている。

 メイの妙に捉えどころのないキャラクターが奇異な印象を齎し、当初は大した力を持たないシンが圧倒的な能力で迫る魔妖族らと如何に戦うかが興味の対象となる序盤はかなりの牽引力を備えているが、仲間を盛んに入れ替えながらの旅が始まったあたりからは少々だれる。しかし、いざ完結してみるとその随所に伏線を張り巡らせていたことが解って、悪印象が一気に払拭されてしまった。なるほど、はじめからこの着地を目指していたのなら、中盤ゴタゴタするのも致し方なかったところか。

 ただ、前述の通り人間族とその他の種族との能力差は極端すぎ、序盤でこそ律崩術剣という魔妖族に対して必殺のアイテムを託されていたが、それを奪われてしまった終盤は、シンに主役らしい活躍の場があまりなかったことが物足りない。そのぶん、いかにも少年向け小説らしいくそ度胸と妄想スレスレの正論で渡り合おうとする姿に格好良さが滲んでいるものの、諸事情から彼以外の強者もまた存分に力を発揮できていないきらいがあるので、クライマックスながらややカタルシスに欠くことは否めない。事情が事情なので仕方ないとは言え終盤はメイが萎れていまいち個性が振るわなかったし、伏線が徹底的に張り巡らされていたとは言い条、晦渋すぎて軽く読もうとすると理屈がうまく頭に染みこんでいかないのもちょっと敷居を高めている感がある。

 しかし、挙句に選ばれた結論はなかなかに快い。誰もがどうしようもなく傷つくわけではなく、それぞれに代償を払いながらも納得のいく結末に導いていったのは見事だ。あまりに綺麗に収まってしまったうえ、その後味が前述の『シェリフスターズ』シリーズに微妙に似通っているのが気に掛かるが、まあそのくらいは大した問題ではない。

 リアルタイムで読んでいた人間としては、三年半もかけないで欲しかったなー、とちょっと思うが、完結した今となってはどうでもいいことです。やや定型に収まりつつも作者の個性はきちんと留めた、安心感のあるシリーズでした。

 以上、神坂作品はふだんは感想を書かない代わりに、シリーズ完結の時だけ全体を通した感想を書き留めておく、という自分内ルールに従いました。そのため、上の書誌はすべて最終六巻に関するものとなっていますが、内容は全体についての感想になっています。念のために。

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