『「弩」怖い話2 Home Sweet Home』
判型:文庫判 レーベル : 竹書房文庫 版元:竹書房 発行:2005年3月5日 isbn:4812420008 本体価格:552円 |
|
幸せになるはずだった男性が、新居とした妻の実家で体験した怪異に始まる悪夢の連鎖。高度成長時代に、各地に派遣される夫に付き従い家を転々とした女性が巡りあう怪異の数々。そして彼らの実家にも存在した、異様な出来事……一年振りとなる『「弩」怖い話』第二巻はふたたび趣を違え、“家”に纏わる連鎖的な怪異をドキュメンタリータッチで綴る。
本シリーズの母体である『「超」怖い話』は、“怪異はその蒐集者の体質に添って集まる”という法則に違わず、平山夢明氏と本書の著者・加藤一氏とでは担当するエピソードの手触りが異なっている。血みどろでえげつない筋書きの多い平山氏の担当分に対して、加藤氏の手がけるエピソードはさりげなく、幾分ほのぼのとした趣がある。すべてがすべてそうだという訳ではないが、『「超」怖い話』から離れた単著である『禍禍』を例にとっても、柔らかな傾向の話が集まりやすいのは間違いないだろう。 だが、本書のムードはそうした従来の加藤氏の紐解く怪談とは明らかに肌合いが異なる。終始ねばねばとした厭な気配が貼りついている感覚があり、ほぼ例外なく何かが破滅していく推移は従来の『「超」怖い話』と比較してもかなり不気味だ。 本書に収録されたエピソードは八話構成となっているが、実質的な語り手はたったふたりしか存在しない。六話を占めるのは、谷と川筋の多い土地で育った女性が結婚以来に各地で遭遇した出来事の数々である。新婚家庭に降り注ぐ血の雨、その後、子供が生まれて以来仕事のために各地を転々とするようになり、その家々で体験した様々な変事、そして夫婦それぞれの実家に纏わる因縁。それぞれに繋がりはないのだが、たったひとりがこれらをすべて見届け、連綿と連なる背景があるように感じさせるのが、短篇形式である『「超」怖い話』などとはまた別種の恐怖を齎す。当事者にとっては思い出したくもない記憶であろうが、実話怪談というジャンルには願ってもない収穫であるには違いない。 それにも増して恐ろしいのは、巻頭と巻末におかれた、また別の新婚家庭を端緒とする怪異の数々である。因果が解らない。どんな理由で最初の“犠牲者”が選ばれたのかが定かでない。しかし、確実にあるパターンを踏襲して繰り返される、という事実は、実話であるという前提があるだけになおさら怖い。 先に執筆されたという冒頭の一話はともかく、巻末の一話は取材が進むたびに書き足されていく、という形式を取っている。執筆者が先を知りうるはずもなく、予測できないままに筆を進めているその様子が、この一連の出来事の不気味さを更に増幅させている。その上、あとがきで付け加えられる「まだ終わっていない」という一言が、否応なしに怖気を誘う。 執筆前後でも御祓いをしない、と公言して憚らない『「超」怖い話』の著者ふたりであるが、本編執筆後にはとうとう観念して数年振りに頭を垂れる意をあとがきにて表明している。だいぶ重度の怪談ジャンキーになりつつある私でさえ、今回は多少なりとも覚悟をして取りかかったぐらいなのだから、エピソードの迫力としては申し分ない。 ただ、やはり実話怪談を小説形式で発表するのは色々と問題がある、と感じた。現象そのものが驚異的であるが故にさほど鼻につかなくなってはいるし、叙述のレベルも前巻より増していることは確かなのだが、それだけに紛い物の空気が滲んでしまっているのは勿体なく思う。『「超」怖い話』と同様に、全篇聞き書きの体裁でも良かったのではなかろうか――だからこそ、著者の視点が介在する最終話が特に、沁みるように恐ろしかったのだから。 著者自身が前書きにて「買うな」「読むな」「読んだら可及的速やかに手放せ」と言うほどの内容であるだけに、初心者でかつこういう怪談に対して多少なりとも想像力を働かせてしまう向きには相当しんどい代物であると思う。少し慣れてから触れてください。 |
コメント