『電送怪人 ネオ少年探偵』
判型:B6判ソフト レーベル:エンタティーン倶楽部 版元:学習研究社 発行:2005年6月7日 isbn:4052023528 本体価格:800円 |
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江戸川乱歩の手によって創出され、多くの子供達ともと子供達の記憶に留まり続ける『少年探偵団』の衣鉢を継ぐ、芦辺拓による『ネオ少年探偵』シリーズ第一作。
小学生の久村圭は下校途中、たまたま拾った携帯電話に届いたメールに導かれて、廃屋で異様な実験をする老人を目撃する。ほとんどの大人達や同級生が信用しない中で、光野亮介という新聞記者と、ひょんなことから初めて言葉を交わした同級生の桐生祐也と八木沢水穂だけが耳を傾けてくれる。しかし間もなく電送怪人は予告と共に実業家のもとに出没、実業家が蒐めていた貴金属類と共に彼の命をも奪ってしまった。過去の因縁から警察が疑いを光野に向けていると気づいた圭たちは、藁にも縋る思いで“名探偵”のいるレトロビルを訪ねる…… 単行本化こそ第三作『謎のジオラマ王国』とともに今年ようやく実現したが、作品としては昨年刊行済みの『妖奇城の秘密』に先んじて学研の学年誌に連載された本編が“ネオ少年探偵団”のデビュー作である。 『妖奇城の秘密』と同様、乱歩の少年探偵団シリーズによって確立された少年向け作品の定番とも言えるガジェットを盛り込みながら、本格ミステリとしても成立させている点で乱歩を踏襲しながらもきちんとそれを乗り越えている印象だ。『妖奇城の秘密』では少年探偵団のメンバーが三人もいる必然性がない――強いて言えば、三人であるからこそ勇気をもって危険に対峙出来る、というくらいでキャラクターの差別化がはかりきれていなかったが、第一作である本編は三人の出逢いから描写しているせいもあるのだろう、一緒に行動している点は変わりないが、言動に個性が滲んでいてキャラクターが掴みやすい。この点も、小林少年ほか二・三人を除いて誰がいるのかさえ解らない少年探偵団シリーズよりも優れている。 ただ、学年誌で数ヶ月に渡って連載していること、またイラストや造本の都合もあって大人向けの物よりも遥かにシビアな紙幅の制約もあってか、膨らませようと思えばもっと膨らませられるであろう物語がかなりギリギリに絞られているのが勿体ない。少年向け探偵小説には、まだ謎解き小説の面白さを知らない子供達の興味を惹き、将来へ繋げていく役割が大きく、そのためにはいたずらに長大化することも仕掛けを複雑化することも望ましくないのもまた事実なので、すれっからしの目で理解を示すしかないのだが。 子供が無意味に手柄を立てるのではなく、大人の世界とのあいだにある壁を意識させながら、名探偵役の森江春策をはじめとする彼らを導く大人を用意し、子供達に希望と活躍の場をちゃんと与えているバランス感覚も優秀。往年の探偵小説を中心に娯楽小説の造詣豊かな著者ならではの、正統派ジュヴナイルである。現在のところ同時刊行の『謎のジオラマ王国』を最後に新作が発表される様子はないようだが、着実に巻を重ねて乱歩版『少年探偵団』を超える“大人向け探偵小説への道標”になってくれることを願いたい。 |
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