『「超」怖い話Ζ』
判型:文庫判 レーベル : 竹書房文庫 版元:竹書房 発行:2005年8月5日 isbn:4812422299 本体価格:552円 |
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『新耳袋』とともに現代実話怪談を代表するシリーズ、竹書房での第六作。とある地方の死者を巡る伝承に絡んだ『棺潜り』、仕事で火葬場の空調修理に赴いた男性の見舞われた怪異『フィルター交換』、ドサ廻り芸人の風習にまつわる『忌外し』など全42話を収録。
……とにかく、平山夢明氏と加藤一氏のブログを拝読している身には、ちゃんと七月中に刊行されたこと自体が奇蹟であり、ある意味恐ろしい事実である。出版関係の仕事にちょっとでも携わったことのある方なら、あとがきにある「七月某日」という日付がどれほど異様なものであるかお解りだろう。何はともあれ、刊行に漕ぎつけてしまったその努力にまず敬服する。 いったん世に出回ってしまえば、問題は内容である。が、それでも刊行に至る異常なペースを考えると嘘のようなアベレージの高さを示していると思う。粗筋に挙げた三本はいずれもかなり強烈な印象を残すし、『T.S』や『念仏』、『願解き』など因習にまつわるエピソードも興味をそそる。とりわけ巻末に収録された二本の長篇の迫力は、シリーズでもトップクラスに属するだろう。 但し、幾つか首を傾げたこともある。編集期間の短さから生じると見られる誤字脱字の多さには目を瞑るとしても、体験者の設定が似通っているものが多いのが気に掛かる。とりわけ序盤の幾つかのエピソードは若い女性から取材しているものが多いようだが、そのせいで体験そのものは異なっていても結末が似通ってくるのだ。しかも、この特徴は平山夢明氏の同時期に刊行された著書『ふりむいてはいけない』に収録された作品群とも一致する。時間を置いて読むのであればまだしも、熱心に追っている人間なら立て続けに読んでいても不思議ではなく、せめて住み分けは明確にして欲しかった。 その一方で、本書は従来の『「超」怖い話』と比べると、若干だがグロさが抜けたような印象があり、やや趣が異なる。巻末を飾る二長篇に『夜のプール』『期待』などにはあからさまな『「超」怖」らしさが窺えるし、『血の丸』『裏鏡』など呪いに関する話も退けないあたりは相変わらずなのだが、他の話は累が及ぶとしてもせいぜい怪我程度か、一緒に体験した恋人と別れるぐらいで、比較的あっさりとした印象の話が多くなっているのだ。厳しい人ならいささか腑抜けたか、ぐらい言ってしまうかも知れないが、ここに来ていい方向へ受け皿が拡がり始めた、と捉えることも出来よう。特に『靴』や『椎堂弥五郎』のパターンを逸脱した展開は、新機軸を予感させる。 やや雰囲気に変化が出たとはいえ、話そのもののクオリティに安定感があることは賞賛に値する――それだけに、ネットでも追いかけている愛読者をハラハラさせ、著者ふたりの健康を心配にさせるような執筆・刊行スケジュールはいい加減止めていただきたい。なんかカバー表四折り返しの所に「年二回1月、7月刊行」なんてことがお約束のように書かれてしまっているが、本気でやるならもう今から書き始めて、10月ぐらいには準備完了、というぐらいの気構えでお願いしたい。見てて居たたまれません。 |
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