怪(あやし)の標本

怪(あやし)の標本 (あやし)の標本』

福澤徹三

判型:文庫判

レーベル:ハルキ・ホラー文庫

版元:角川春樹事務所

発行:2001年2月18日

isbn:4894568322

本体価格:560円

商品ページ:[bk1amazon]

『幻日』*1でデビューした著者の第二作品集。自らと周辺の人々の奇怪な体験の数々を取り留めもなく綴る表題作、滴る雫の音が凄惨な出来事の記憶を連鎖させる『雨音』、無為に日々を過ごす男の世界が反転する『受刑者』、愛する妻が死の直前に遺した言葉を守ってその日を迎える『四十九日』、管理人が自殺を決意してからの準備と心境とを綴る奇妙なウェブサイトに関する怪異譚『訪問者』の計5篇を収録する。

 近年は創作ホラーのみならず、実話怪談や、豊富な経験を活かしアウトサイダー的な人間像を中心に据えた作品を著すなど活動の幅を拡げている著者であるが、第二作品集である本書において早くもその“幅”を窺わせている。

 特に表題作は、まるで著者が生身の視点から、聞き集めた怪談を思いつくままに羅列しているような作りであり、これをエピソードごとに解体するとそのまま著者による実作怪談『怪を訊く日々』*2の味わいになると想像が出来る。鏤められた、何気ないけれど意識の片隅に確かな如何を齎す怪異や、そのままおぞましさを呼び起こす経験談などが反響しあい、全体で独特な余韻を残しているあたり、一篇の小説としての結構にも注意を払っていることが窺え、なお好ましい。

 そのぶん、続く4作品では怪談のテイストは抑えめになっている。『雨音』の構成自体は表題作に近しく、バラバラの出来事が連なって最終的にある出来事に結びつく、というものだが、怪談やホラーと呼ぶよりは幻想小説と捉えたほうが実態に近い。

 続く『受刑者』は、よく唱えられる思想や何処にでもありそうな人物像をもとに築きあげられる怪異譚である。超常的なものはほとんど盛り込んでいないにも拘わらず、どこか快いラストが齎す余韻には、肌を粟立たせるものもある。

『四十九日』もまた、終盤で立ち現れる超常現象よりも、登場人物たちの死に対する態度を描くことに着眼した作品と考えられる。穏やかな筆致で描かれる、着実に死を迎えつつある妻の描写や、その事実に対して動揺し、自らの観念に思考を巡らせていく男のさまこそ読みどころと言えよう。

 掉尾を飾る『訪問者』は、ある閑散としたウェブサイトに不思議な魅力を感じた作家が、そこのコンテンツである日記に書かれた、管理人が死を目指して突き進んでいくさまを自分なりに消化して書き直していく、という作業を主体にしている。ウェブサイトを巡る描写がリアリティに優れており、横溢する雰囲気の薄気味悪さが秀逸だ。ただ、こちらも結末での出来事がいささか唐突の感を免れないように思う。

 雰囲気作りに優れた作品が多く、充分にホラーとして上質の出来ながら、うしろの2作にはホラーというジャンルに対する遠慮、或いは配慮がやや作品の結構を歪めてしまった印象を受けた。だが、気品のある文章から滲み出る雰囲気は、他の書き手にはなかなか真似のできないものがあり、既に唯一無二の風格を感じさせる作品集である。

*1:親本はブロンズ新社だが、『再生ボタン』と改題して幻冬舎文庫より刊行されている。

*2:単行本はMedia Factory、現在は幻冬舎文庫に収録されている。

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