昨日あんなことを書いたあとで何故か『A I R』ではなくこっちを観るあたりが我ながら天の邪鬼だ。
いやいったい何だこの細部への拘りは。掃除の際の作法に紅茶を出すときの向きから貧民層と上流階級の対比まで、作品のどこに焦点があるのか解らなくなるくらい肌理が細かい。第一話ということがあるにしても、丁寧すぎる背景と人物描写を観ているだけでも陶然とします……ってさすがにそれはマニアックか。
ただ、ちょっと人物の輪郭がぼやけているのが気に掛かります。背景に人物を馴染ませるために輪郭線を黒ではなく茶色にしているせいでしょうが、エフェクトとの兼ね合いもあって背景に埋没させすぎているような。もうほんの僅か、色が濃くても良かったと思います。
お話は、原作とはちょっと動きを変えつつ、きちんと要点を活かして再構成してあるので、原作のファンにも納得の出来です。エマとウィリアム、それにケリー先生という最小限の人物しか出てこないせいもあって、ぎこちなく想いを通わせあう二人の姿をこれでもかとばかり丁寧に描いているのに好感を持ちます。この段階ではジョーンズ家の人々も、ケリーの周辺の人々も登場させていないあたり、次第に悲劇的な色彩を帯びる物語の全体像も計算に入れてあるようで、その辺にも改めて感心したり。
気に掛かったのは、ガヴァネスやジェントリといったヴィクトリア朝以前のイギリスに浸透していた固有名詞を日本語に置き換えず使っていること。ガヴァネス=家庭教師、ジェントリ=上流階級という通例の置き換えではそのニュアンスが伝わりきらないのも解るのですが、知識がないと「え?」「え??」と戸惑うだけで終わってしまいそうな危険も感じました――尤も、あの丹念な情景描写に感銘を受けないくらい原作にもヴィクトリア朝にも興味のない人は、たぶんこのまったりした展開に触れた時点で観るのを諦めそうな気はしますが。要は匙加減よね。
もともと世評が高いので、観ないままでも一切心配することなく集めはじめていたDVDですが、これで更に安心しました。仮にこのあとの話を観る機会がなかなか掴めなかったとしても、気にせず買い続けられるぞー。
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