謎のジオラマ王国 ネオ少年探偵

謎のジオラマ王国 ネオ少年探偵 『謎のジオラマ王国 ネオ少年探偵』

芦辺拓

判型:B6判ソフト

レーベル:エンタティーン倶楽部

版元:学習研究社

発行:2005年6月7日

isbn:4052023536

本体価格:800円

商品ページ:[bk1amazon]

 江戸川乱歩が描いた『少年探偵団』の世界観を現代に伝える、ジュヴナイル探偵小説の第三作。

 久村圭・桐生祐也・八木沢水穂の少年少女探偵三人組が通う学校で、ちかごろ妙なものが流行している。それは異様なほど精巧なフィギュアで、ある人物が子供達に無償で提供しているのだという。ひょんなきっかけから圭と祐也が入手したものが、現実に発生した現金強奪事件と墜死した男性とに擬えたものだと気づいた三人は、これは看過できないと問題のフィギュアの製作者・滑刈乙二の家を訪ねる。だが、そこで圭たちは更に驚くべきものを目の当たりにした。古い木造家屋の一角に、彼らの暮らす街を忠実に再現したジオラマが建てられており、そのビルのひとつに滑刈が火を放つと、実在のビルでも火災が発生したのだ。このジオラマを通じて世界を思いのままに動かすことが出来る、と豪語する滑刈は、やがて少年少女探偵三人組に挑戦状を叩きつける。果たして滑刈乙二は本当にジオラマ王国を介して世界を支配する“神”なのか、圭たちは彼に勝てるのか……?

 少年向けという制約のなかで探偵小説の魅力を存分に伝えようとしたこのシリーズは、それ故に大人向けの作品以上に攻撃的で大胆な仕掛けが施されている。今回用意された謎もかなり壮大稀有である。何せ、ジオラマを介して世界を思うように動かそうとする怪人が相手なのだから。

 但し、仕掛けが壮大すぎるがゆえに、どうしても解決編が小さく感じられてしまうのが残念なところだ。特にこの作品の仕掛けは、目敏い人ならまず最初に思い浮かべるであろう方法に基づいているため、余計に謎の外連味豊かさと比べて卑小さが際立ってしまう。単純な少年探偵VS.怪人という図式で終わらせず、常に捻りを加えるのは著者のサービス精神と向上心の為せるところであろうが、魅力的な謎とそれに見合う美しい解決との調和の難しさを再認識せずにいられない。

 と、謎と解決という観点からすると不満を禁じ得ないのは事実だが、その分少年探偵を軸とした冒険ものジュヴナイルとしての筋の組み立ては見事だ。自ら危険に赴き、結果として犯人の虜となるものの、自らの機知によって窮地を脱しようとする子供達の姿は、正統的な冒険物語のあるべき姿に則っている。解決編のいちばんいいところを大人に掠め取られているのは勿体ない気もするが、相手が相手であるだけに致し方ないところでもあるし、元祖である江戸川乱歩の少年探偵団にしても基本は名探偵・明智小五郎の手足なのである。そこから前進し、自ら危険に挑み謎解きに赴く少年少女探偵たちの勇ましさはオリジナルを上回っている。そういう彼らの猪突猛進ぶりにちくっと釘を刺しているのも、著者の良心を窺わせて好もしい。

 このシリーズでもうひとつ特筆すべきは、乱歩の少年ものでは敵を怪人二十面相に統一することで画一化されてしまった“動機”を、決して軽視せず丁寧に練っている点である。本編にしても同様で、解決編で明かされる犯人の背景は、実際に起きた事件の性質を裏打ちしており、ただの誇大妄想に留めていない。そこに、作中で何気なく触れられた出来事が伏線として絡んでくるあたりも絶妙だ。

 探偵小説と娯楽への拘りにかけては人後に落ちない著者が、少年少女を探偵小説の大海へ誘わんと趣向を凝らした作品であるだけに、短めの尺のなかに限界まで多くの要素を詰め込んだ、密度の高い仕上がりである。それ故に欠点もまた顕わになっている嫌いがあるが、ここまで来れば一種の愛嬌だろう。

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