「超」怖い話H(イータ)

「超」怖い話H(イータ) 「超」怖い話(イータ)

平山夢明[編著]/加藤一[編共著]

判型:文庫判

レーベル:竹書房文庫

版元:竹書房

発行:2006年2月4日

isbn:4812425123

本体価格:552円

商品ページ:[bk1amazon]

 復活以来、年二回刊のペースを定着させた『「超」怖い話』シリーズの、竹書房文庫での第七作目。平山夢明+加藤一という二人体制での十冊目であり、またシリーズの開始から十五周年を迎える年に刊行された記念すべき一冊でもある。田舎の何気ない光景に現れる怪事『飴鬼灯』、アルバイトで赴いたホテルにて女性ふたりが遭遇した洒落にならない怪異を描く『ホテル』、廃墟探索に凝っていた少女たちが最後に襲われた悪夢を描く『うずらの卵』など、42編を収録する。

 このシリーズの場合、一篇一篇のクオリティよりも、ギリギリでながらきちんと年に二回、冬と夏とに新刊が市場に出てくることがまず驚きになっている――単純に、店頭に並んだのを見つけて購入している人は解らないだろうが、著者おふたりのブログを眺めていると、ファンは毎回のようにハラハラし通しなのである。正直、本編を読むよりもそのスリリングさのほうが楽しかったりするほどだ。

 しかし、そのあおりで毎回のように推敲や構成がお座なりになっているのはやはりいただけない。今回も、たとえば『ホテル』では登場する部屋番号が途中だけ10番ぐらいずれていたし、てにおはの脱落などが随所に認められた。こういうミスが多いと、内容の質がいくら良くても印象を悪化させる一因になる。いい加減こういう切羽詰まった執筆態勢は見なおすべきだろう。

 質的にはかなり安定した巻である。『新耳袋』と比べるとどぎつくえげつないエピソードが多く、今回も巻頭と巻末にかなり後を引く話が置かれているが、しかし中間に鏤められた話は、『「超」怖い話』としては特殊な、恐怖というより不思議な感覚を齎すエピソードが多くなっている。海外での異様な目撃談『出航』、怪異の領域がやたらと大きい『立ち蕎麦』、など、このあたりのテイストは『新耳袋』に近く感じられた。

 とはいえ、相変わらず迫力があるのは平山夢明氏主導となった『「超」怖い話』の特徴である血みどろの悪夢であり、特にトリを飾る『うずらの卵』のインパクトは凄まじい。ただ、個人的には『着歴』のほうに、内容的には有り体であっても、原因も結果も判然としないが故の想像力を激しく刺激する恐怖のほうが、より怪談としては力強い、と思う。そうした双方向の傑作が収録されていることは、未だこのシリーズの力が落ちていない証明とも言えよう。

 ちなみに今回、怖いとかいう以前に吃驚したのは、『方違』というエピソードである。ある病院での怪異を綴った話だが、まさに題名通り、平安時代に凶兆を避けるために貴族などが頻繁に行っていた“方違”という行為を、やむない理由から本当に現在も行っている、という話なのである。しばらく前からちまちまと平安時代に関する書籍を読んできた私には、これがいちばんの驚きであり、発見であった。

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