『東京伝説 渇いた街の怖い話』
判型:文庫判 レーベル:竹書房文庫 版元:竹書房 発行:2006年5月4日 isbn:4812426529 本体価格:552円 |
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もはやどこにも安心できる場所などありません。『「超」怖い話』の番外編としてのスタートから8冊を数え、平山夢明氏のもうひとつの看板に成長した感のある最新刊。
まあよくもネタが尽きないものだと、まずそのことに感心する。ハルキ文庫刊のものから追ってきた目には完全にパターンが出来上がってしまっており、物陰から襲い生爪を剥ぐ悪意でさえ既に馴染みのようなものになってしまっているが、半年に一冊のペースが保てるほどにこうした体験談が著者の元に舞い込んでいる、という事実自体がもう充分にホラーである。 さすがに密度は下がっており、有り体の詐欺でしかない『大当たり』や、当事者の視点を欠いた描き方そのものがホラーとは別種の不快さに繋がってしまっている『徘徊さん』、狂気とも無縁の“災難”でしかない『賽銭箱』など、本来の趣旨からすれば省いて然るべきエピソードが混ざってしまっており、著者自身までが冷静さを欠いてしまっているように感じられるのが気懸かりだが、しかしそれでも『面接』『クラッシュ』『跳ねて転んでまた飲んで』といった、初めて触れる読者には吐き気がするほど衝撃的であろうエピソードが含まれているので、まだまだ健在という趣がある――ある意味歓迎したくない健在ぶりではあるが。 巻を重ねるうちにパソコンが普及し携帯電話が定着し、変化する風俗に合わせて事件の筋書きやディテールにも微妙な違いが生じており、一風変わった切り口から時代を記録する資料としての役割を果たしているとも感じる。初期からの愛読者としてはもう少し内容を精選していただきたい、と苦言を呈さねばならないが、質と量とのバランスに気遣いながら今後も継続されることを期待したい――著者が健康を害さない範囲で。 |
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