インディゴの夜 チョコレートビースト

インディゴの夜 チョコレートビースト インディゴの夜 チョコレートビースト』

加藤実秋

判型:四六判仮フランス装

レーベル:ミステリ・フロンティア

版元:東京創元社

発行:2006年4月20日

isbn:448801724X

本体価格:1500円

商品ページ:[bk1amazon]

 常連客の殺人事件を解決したことをきっかけにたびたびトラブルに見舞われ、最近ではホスト業界で生じた事件解決に頼まれて引っ張り出されることの増えた<club indigo>の面々。彼らが遭遇した事件を、フリーライターにして共同経営者である高原晶の視点で綴るシリーズの第二作品集。ふたりのホストが顔に薬液をかけられるという事件の嫌疑を受けた若いホストを巡る『返報者』、行方をくらました編集者を追って晶らが東奔西走する『マイノリティ/マジョリティ』、晶の失態で強盗に奪われてしまった犬を捜す『チョコレートビースト』、難病を抱えたホストをコンテストに出場させ勇気づけようとする<club indigo>が嫌がらせを受ける『真夜中のダーリン』の四編を収録する。

 前作『インディゴの夜』は、ホスト業界という現代的な要素を採り入れ、ミステリ色は薄めだが高いリーダビリティとユニークだが生々しさのある描写で読者を引き込む力を備えていた。本書でもその持ち味は健在であり、前作でそれぞれの個性を発揮したホストたちに新たな活躍の場を齎している。

 ただ、前作以上にミステリ色はかなり薄まっている点は否めない。いちばん謎解きらしい趣があるのは第1話にあたる『返報者』だが、ヒントがあからさまなので簡単に見通しは立つし、続く三作は謎を“解く”というよりは“追う”という風情で、動き回った結果として解決が齎されている格好だ。だがそれ故に、読者を飽きさせない動きとスピード感とを作品に与えていることも事実だろう。謎そのものよりも、謎と現代の風俗が絡みあって生み出されるドラマに照準を絞ったシリーズと言える。

 前作のスタイルを乱さず壊さず、丁寧だがそれを感じさせないさりげなさで踏襲した書き方は見事だが、少々惜しい、と感じてしまうのは『マイノリティ/マジョリティ』である――収録作中、この作品は事件の内容的にホスト業界とも風俗業界とも縁遠く、やや雰囲気が浮いてしまっている。語り手となる高原晶の本職である出版業に絡むエピソードであるし、事件解決にあたってホストたちの人脈が役立てられているので、まるっきり無縁ではないのだけれど、一読「ちょっと違う」という印象を抱かされてしまったのは事実だ。晶の本業に絡めるのは悪くないが、そのうえでなおかつホストたちらしい“探偵”ぶりをもっと盛り込んでほしかった、と、楽しんだからこそ苦言を呈したくなる。

 とはいえ、過剰に拘りすぎず読むぶんには、極めて読み心地のいい、良質のエンタテインメントであることは保証できる。特に高原晶のあまりにも人間的な行動が齎した失態から、思わぬ犬捜しと強盗捜しが始まる表題作と、下手をすると湿っぽくなるだけの素材に“日本のホストNo.1を決定する”という如何にも現代的ないかがわしさのあるイベントを絡めてユーモラスに、しかしスリリングに綴った『真夜中のダーリン』の味わいなどは、様々な世代の感性をバランスの取れた眼差しで描くことの出来る著者ならではの巧さがある。

 前作の時点でも書いたことだが、今回も改めて、続きが待ち望まれるシリーズ、という感想を抱いた。願わくば、未だに謎の多い憂夜や個性的すぎるナンバーワンホスト・ジョン太ら自身の事件もいつか綴られんことを。

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