鮎川哲也コレクション<挑戦篇>I 山荘の死

鮎川哲也コレクション<挑戦篇>I 山荘の死 鮎川哲也コレクション<挑戦篇>I 山荘の死』

鮎川哲也

判型:四六判ハード

版元:出版芸術社

発行:平成18年6月20日

isbn:4882932997

本体価格:1700円

商品ページ:[bk1amazon]

 鮎川哲也が発表した、“問題篇”“解決篇”に分かれたいわゆる“犯人当て小説”を網羅する《挑戦篇》の第1巻。日本探偵作家クラブの例会で披露され、手練れを翻弄した傑作『達也が嗤う』、山荘を訪れた映画人たちのあいだで巻き起こる連続殺人を描いた表題作ほか全十四篇を収録する。

 生涯、論理的な本格探偵小説にこだわって執筆を続けてきた著者だけあって、寡作ななかに多数の“犯人当て小説”を発表していた。『達也が嗤う』はその中でも、隅々にまで趣向を凝らした作りによって伝説と化しており、さすがに面白さは折り紙付きである。

 だが、こうしてまとめて読むと、ネタひとつひとつの小ささや、物語として構成することをあとまわしにしているが故の小説としての弱さが災いして、小説集としては楽しみにくい。連載の体裁を取り、たとえば探偵役が共通しているなどの一貫性があれば違ったのだろうが、一篇一篇で趣向が異なっているため、ペースが掴めないと最後まで乗りづらい。

 それ故に本書は本来の趣旨――つまり、犯人当てとして、一篇一篇作者からの挑戦を受け、丁寧に吟味しながら読むのが一番だろう。どれほど短い作品であっても、きちんとヒントや伏線が張られており、それを抽出し自分なりの推理を組み立てていく楽しさ、それが答と合致したときの快感は、この“犯人当て小説”の形式ならではの醍醐味である。

 しかしそういう捉え方をしても、尺の制約ゆえもあるのだろう、全体に倒叙ものが多く、犯人を当てるというよりは犯人のミスを指摘する類の話が多いのがちょっと残念だ。反対に、『達也が嗤う』や表題作のように、わずかな紙幅で複数の死者を出し捻りを利かせた作品もあるだけに、この著者ならどれほど短くても正しい“犯人当て”を書けたのでは、と惜しまれる。

 既に物故した著者の、しかも1960年代から70年ぐらいまでにかけて発表された古い作品ばかりなので、文体の面でも内容の面でもマニア向けの印象は否めないが、しかしいま読んでもそのフェアプレイ精神は古びておらず、作者との犯人当てゲームを楽しむことは可能だ。とりわけ『達也が嗤う』などは本格ミステリ愛好家ならば一度は触れておいて損のない傑作であるだけに、取っつきの悪さを乗り越えて若い読者にも手に取っていただきたい。

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