『亡者の家』
判型:文庫判 レーベル:光文社文庫 版元:光文社 発行:2005年6月20日 isbn:4334738958 本体価格:476円 |
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諸星がフリーターから消費者金融の社員に転身して半年になる。違和感を覚えながらも、せめて信用を得られるまではと務め続ける彼は、やがて勢田という男を客として迎える。多重債務者だが今までに焦げ付きのないこの男は、決して客として悪くないはずだったが、しかし翌月から早々に返済が滞った。自ら勢田の家まで集金に赴いた諸星は、勢田の妻・由貴子の奇怪な魅力と、勢多の暮らす家の纏う不気味な気配に幻惑される。やがて、自分の本質と仕事の無慈悲さとの不均衡に戸惑い辞職さえ考えはじめた彼の身辺で、事件が多発する……
取材した怪談を下敷きにしたホラーと同時に、多彩な職業経験を活かしアンダーグラウンドに属する人々を描くことも頻繁な著者の本領発揮というべき設定である。消費者金融の実態を描く筆遣いの巧みさ、生々しさがまず凄い。完全には馴染めぬ諸星が感じるギスギスとした空気は出色である。 ホラーとしては、直接的な現象を最後の最後まで温存し、ひたすら気配を醸成することに腐心している。勢田一家の暮らす部屋の異様さ、そこから立ちのぼるものが周辺へと蔓延していくさま、そうしたところからじわじわと恐怖が伝わってくる。決して閉じこめられているわけではないのに、出口が無くなっていくような感覚を作りだしていく手管が見事だ。 決着もまた異様であるが、正直に言って少し書き急いでいるような印象を受けた。振り返ってみれば伏線も認められるし、この他にあり得ない結論ではあるのだが、説明不足である一方、しかし予想のつく結末であるように感じられる。あまり説明しすぎて理に落ちてしまっても余韻を損ねるし、逆にまったく予想の裏を掻いても失望を齎しかねない作りだけに、どうすれば不満のない決着になるかは難しいところだしまた読み手それぞれの好みにもよるだろうが、私は物足りないと感じたことをお断りしておく。繰り返すが、このあたりの判断は読み手の嗜好によってだいぶ異なるだろう。 いずれにせよ、具体的な怪奇現象を抑えながらも怪談らしい空気を醸成し、じわじわと盛り上げた恐怖をクライマックスで爆発させる構成も丁寧であり、味わい甲斐のあるホラー小説である。サイズと価格設定のお手頃さも嬉しい。 |
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