9・11 ユナイテッド93 テロリストと闘った乗客たちの記録

9・11 ユナイテッド93 テロリストと闘った乗客たちの記録 『9・11 ユナイテッド93 テロリストと闘った乗客たちの記録』

ジェレ・ロングマン/原口まつ子[訳]

Jere Longman“Among The Heroes”/translated by Matsuko Haraguchi

判型:文庫判

レーベル:光文社文庫

版元:光文社

発行:2006年7月20日

isbn:4334761720

本体価格:686円

商品ページ:[bk1amazon]

 2001年9月11日、世界貿易センタービル二棟に旅客機が激突、倒壊。続いてペンタゴンにも旅客機が突入し甚大な被害を齎した。世界的な激動の端緒となったこのアメリ同時多発テロの同じ日、やはりテロリストによって占領されながら、ただ一機、重要な施設に突入することなく、ペンシルヴァニア州の広野に墜落した旅客機があった。そのとき、ユナイテッド93便の内部でいったい何が起きていたのか? 乗員乗客の遺族みならず、墜落を目撃した人々や搭乗記録から主犯と目されるテロリストの遺族へもインタビューを重ね、機内での出来事を検証したドキュメント。

 この日にハイジャックされた機のなかで唯一、爆弾として利用されることなく墜落したユナイテッド93については、未だ内部で何があったのか正確には把握できていないそうだ。本書によれば乗客はおろか旅客機までも粉微塵に吹き飛び、もはや科学的調査のメスが入れられないほどに四散してしまった痕跡から、内部での出来事を検証することは不可能だった。そこで著者とスタッフは事件当時、携帯電話やエアフォンによって機内の乗客たちと直接会話を交わした遺族は無論、連絡の取れなかった遺族たちからも乗員乗客の人となりを聞き取り、内部での行動を推測していくかたちをとっている。

 通話内容及び回収されたブラックボックスから得られた情報で、一定数の乗客が占領されたコックピットに突入したことは間違いないと解るが、それ以上のことはやはり不明なままで、どうしても隔靴掻痒の感は否めない。だが、本書を読んでいくと、このユナイテッド93便に乗り合わせたのがただ平凡な市民ではなく、比較的行動力に富んだ人々であったことが窺われ、墜落に至った経緯が納得できるように思えてくる。本書の取材時期が事件後さほど間もなかったことを思えば、遺族の感情も未だ昂っており、またある程度情報が美化されている可能性も低くないと推測される。だがそれでも、これだけの人々が居合わせたのであれば、テロリストから機を奪還したのも、被害の拡大を避けて広野に墜落する道を選んだのも頷けるのである。

 しかし本書の真の意義は、機内における乗客たちの英雄的な行動を評価することにもあるが、それ以上に、あまりに唐突な親しい人の死と、英雄視されながらも疑惑や嫉みの目に曝される遺族たち、またその周囲にいる人々の意識を克明に辿っている点にこそあると思えてならない。実際、事件の推移を辿りつつ乗客の人となりを語っているだけの中盤あたりまでは、これといった筋が見えてこないために、読み物としていささか退屈な印象があったが、ことが事後処理とマスコミを中心とする世間の反応、それに対する遺族たちの意思を綴る段になると、俄然読み応えを増してくる。あの出来事を宿命として受け止める人もいれば、防ぐことは出来たはずだと訴え続ける人もあり、また対テロの戦いに赴く関係者もあれば、逆に空爆などで自分と似た境遇に陥れられたアフガニスタンの人々を支援する活動に就くようになった遺族もいる。その様々な受け止め方が、未だその“意味”が定まっていない911という出来事を如実に象徴していると言えよう。

 文章の構成や訳文の作りなどに拙さが感じられ、それだけに読み心地があまり良くないのが難であるが、そこを耐えて読み通すだけの意義のある1冊である。この夏に日本で公開予定の、ポール・グリーングラス監督による『ユナイテッド93』を鑑賞するつもりがある方は無論のこと、あの運命の日について関心を寄せる方ならば一読する価値がある。それ以外でも、特殊な事態に巻き込まれた人々と、その親しい人々の意識や行動について関心のある方は是非とも一度本書を手に取っていただきたい。

コメント

  1. Hiro-san より:

    はじめまして。イスラム過激派のテロリストがハイジャックしたと信じる根拠に、このユナイテッド93便からの交信・電話記録が大いに貢献しているわけですが、その「記録」が正しいかどうかの検証は、今後も続いていくものと思われます。911テロはあまりにも謎の多い事件です。
    http://www.mypress.jp/v2_writers/hirosan/story/?story_id=1459291

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