猫島ハウスの騒動

猫島ハウスの騒動 『猫島ハウスの騒動』

若竹七海

判型:新書判

レーベル:Kappa Novels

版元:光文社

発行:2006年07月25日

isbn:4334076351

本体価格:857円

商品ページ:[bk1amazon]

 干潮の時は徒歩で移動できるほど葉崎市の目と鼻の先にある、人口よりも猫の数のほうが多い猫島。ある写真家によって猫の楽園ぶりが紹介されて以来、観光客が増えたのはいいがそのぶんマナーの悪い客も様々流入し、またわざわざ猫を捨てに来る客にも住民達は悩まされる毎日。夏休みに突入した七月下旬、<猫のため息>と命名された入り江でナイフを突き立てられた猫……の剥製が発見されたのを皮切りに、猫島神社の祠がある崖下で墜落してきた男とジェットスキーの衝突事故が発生したり、ゴミ箱から男性の屍体が発見されたりとトラブルが陸続と見舞う。果たして猫島の住民と住猫たちに、安らかな夏は訪れるのか?

 著者は現在の日本における数少ない、意識してコージー・ミステリを執筆する作家であるが、新作はかなり久方ぶりとなった。それだけに読む方としては力作を期待してしまうが、中身は気負いのない、いい意味で安定した軽さを持つ作品となっている。

 登場人物たちは昨今のエンタテインメントにありがちな特殊能力も行きすぎた個性もなく、生々しく実在感のある者たちばかり。そうした人々、主に猫島の住人たちと、たまたま休暇に猫島を訪れていた日に猫の剥製にナイフが突き立てられた事件の一報を受けたばっかりに、その後のトラブルの捜査も請け負う羽目になった刑事と、安穏とした日々を欲して猫島の派出所に赴任したのに、結果的に多忙な毎日を送っている警官などの視点によって描かれる日常と騒動の様子は、終始緊迫感がなくのんびりしている。だが退屈はしない。細かく盛り込まれたユーモアと、ひたすら謎めいていく一連の騒動の様子が関心を惹きつづける。

 硬質な謎解きを期待すると、事件の成り行きがやや恣意的に結びついたきらいのある本編の解決はやや拍子抜けの印象を免れない。だが、きちんと提示された伏線を巧く利用したクライマックスはなかなかの爽快感を伴っており、そういうところも正統的なコージーへの志が窺えて好ましい。

 いわゆる軽めのミステリ、と言われてすぐに思い浮かびそうな、底の浅い優しさで飾られたような人物はなく、いずれもどこかしらに毒や暗さを仄めかしながら、それでも作品の雰囲気から優しさが損なわれていないのが、著者の信念に一本芯が通っていることの証左である。

 そして何より、題名に恥じず猫がちゃんと活躍していることも嬉しい。それも有り体の、人間に都合良く意志を持っているかのような働きをしてみせるのではなく、彼ららしい奔放さと習性を利用しているあたりが見事だ。そのうえでラストには軽いツイストを利かせているのもまた周到である。

 ブランクの長さを感じさせぬ、いい意味でリラックスしながらも信念には揺るぎを感じさせない優秀なコージー・ミステリである。強いて欠点を挙げるなら、その信念ゆえの頑なさがやや滲んでしまっていることだが、それはさすがに酷な要求だろう。出来れば次作はこのままの力加減で、しかしもうちょっと短いブランクで発表されることを願いたい。

コメント

  1. かずは より:

    こんにちは♪
    猫達の活躍が良かったですよね。
    個人的には、黒豹もどきのウエブスターにもっと活躍して欲しかったですが、ポリス猫DCの活躍が見事の一言でした\(^▽^)/
    次回作も楽しみです♪

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